息子が考えたのは元請けの更に上の、大元の発注企業に社の工場のチェックをして貰うというもの。

大元の企業から工場に出向いて貰い、改革案を提示し今後の方向性も含め、色々な面から評価して現状を採点して貰うというもの。

つまり外部者による評価であり、内部では気がついていない事なども含めてのチェックである。

社内の役員会で其の案をプレゼンテーションし、自分で作成した評価シートも提案した。
案は通り大元である企業から工場に視察が来た。

そして其の企業の役席も同行して来たのだが、息子に気が付き「何でお前が此処にいるんだ」と声を掛けて来た。

其の役席は息子が派遣社員時代にオ〇〇ンの工場にて働いている時に、よく製造ラインに視察に来たお方だったそうな。

息子とはよく話しをしたとの事で、覚えていてくれたのだった。

役席は今回の視察について役員から経緯を訊いた、また評価シートについても訊き、立案から作成、実行に至るまで息子が関与した事を知った。

視察後、数週間してから其の役席より息子に連絡が入った、其の後の工場の改革進捗状況を知りたいから一度、社に来いとの事だった。

数度に渡り役席の会社に行き状況報告をした、そして或る日、役席より言われた。

「うちに来ないか」

其の企業はケミカルメーカーであり、世界に冠たる技術を擁している。

高卒等は既に30数年前に採用を止めており、息子なんぞが入社出来る企業では無い。

しかし今回の改革案やら何やらが役席の目に留まり、コイツは使えると判断されたらしい。

で、5月に入社した企業を8月で退社し、其の企業に入社した。

当然の如く行く先々で好奇の目で見られ、常に質問の嵐となるそうな。

だが相変わらずの飄々ぶり、我関せずで仕事に打ち込む。

息子は言う。

「ただ一生懸命に仕事をやるだけ」

そう言えば、息子が高校を卒業して就職が決まった時に送った言葉がある。

オイラもサラリーマン時代にデスクに貼って、己を鼓舞した言葉。

かのプロイセンの鉄血宰相と言われたビスマルクが述べた言葉だ。

「青年に言いたい事がある。働け!もっと働け!あくまで働け!」

息子が覚えているかは定かでは無い、しかし今日も明日も明後日も、一生懸命働き続けている事は間違いないだろう。




人生とは本当に摩訶不思議というか不可思議である。

派遣社員であった息子が数ヶ月後には、大企業に入社するとは。

オイラや息子の彼女の親父さんも驚いた。


人生は誠に面白い。