今日も今日とて、日が傾き、世界が蛍光灯からフィラメント電球の暖かな色合いで染まる頃に、彼は私の執務室へとやってきた。

 「教授。コーヒーでよろしかったですか?」

 我が部屋のようにコーヒー豆を戸棚から取り出し、挽き始める彼。
 執務室にコーヒーの香りが漂う。

 「頼むよ」

 電気ケトルの口から湯気が漂い始める。
 何とも手際が良い。

 カフェのような場所でアルバイトでもしているのだろうか……今度、聞いてみるかな。

 「はい。どうぞ、教授」

 「あぁ、ありがとう」
 受け取り1口。

 「今日はお茶受けも持ってきたのです」

 そう言うと自分のデイパックから、手のひらよりも1回り大きいラッピングされた箱を取り出した。

 「今日は記念日か何かだったかな?」

 受け取って、ラッピングを留めているテープをナイフで丁寧にカットし、包装を取る。

 「やだなぁ。今日はバレンタインですよ」

 「バレンタイン?……ウサギくん。君はそちらの嗜みが?」

 「えっ?!……あぁ、こちらでは女性からしか渡さないのか」

 心底驚いたように、あたふたと慌てはじめた。

 彼がこんなにも取り乱すなんて初めてのことだ。

 「中学生まで暮らしていたカナダの習慣で、毎年お世話になった方に渡しているのです……日本は違うんだったぁ〜……」

 顔を赤くして、必死に弁明する姿はいつもの背筋をヒヤヒヤさせられる彼とは違い、年相応……いや、いつもの彼も年相応か。

 「……なので、決してそういう分けではないのですよ。聞いてます?教授」

 「聞いているよ」

 箱にはトリュフチョコレートが並んでいた。

 「これは、海外との文化のギャップがですね……」

 まだまだ弁明は続きそうだ。
 私は1つとって、口に放り込む。

 少し甘いかなと感じたが、コーヒーのほろ苦さを考えたものなのだろう。

 「ありがとう」

 「へっ?!あ、あぁ……いえいえ、こちらこそいつもお付き合い頂いてますので」