既に下期考査試験も終わり、春季休暇へと入っている学内には教職員と研究生くらいなもので、学生たちの賑わいは無く静かなものだ。
そんな学内とは裏腹に、教授陣はこれ幸いと己の研究に精を出したり、学外の研究会や発表会。はたまたスポンサー様への挨拶周りと忙しいものだ。
かく言う私も、週末の学会に向けた資料制作が佳境であり、ここ数日は執務室に籠もりっきりとなっている。
「教授。集計とグラフ化、終わりました」
そんな中でも、彼は来る。
しかも、発表用の資料作りまで手伝ってもらっている状況だ。
「おぉ、助かったよ。私の方も区切りがついた」
ウサギ君からUSBメモリーを受け取り、ノートPCへと差し込む。
その中のグラフファイルと集計されたデータファイルをコピーし、学会用に準備したフォルダへ貼り付けた。
これで、学会はなんとかなるだろう。
「コーヒー淹れましょう」
スポンサーの都合から、急遽、登壇依頼のあった学会公演であったが、ウサギ君のおかげもあり、どうにかこうにか形になった。
「ウサギ君。君は春休みも予定はないのかい?」
私の問いかけに、キョトンとした顔で振り返っている。
「いや、なに。毎日、来ているようだったのでね」
その言葉で、合点がいったようだ。
「予定を消化するために学校に来ていたのです」
「そうだったのか、それは邪魔をしてしまって悪かったね」
「教授のお手伝いで、むしろ、予定よりも早く片付けられそうなので、こちらも助かりました」
何が、どう助かったのかは分からないが、こちらの都合で彼の予定が狂わなかったのならば良かった。
執務室にコーヒーの香りが漂い始める。
ひと仕事終えた身には、その香りが心地よい。
「ウサギ君。良かったら、週末の学会に行ってみないかい?」
ふと思いついたことを口にしてみた。
マグカップを両手に持った彼の目が輝いているような錯覚を覚える。
「いいのですか?ボクなんかが行っても」
「ここまで手伝ってくれたのだし、それに、発表の時にアシスタントとして居てくれたら、私も心強いというものだよ」
あまりにも急であったために、研究室のメンバーも押さえられず、アシスタント無しで望むことも考えていたのだが、彼が来てくれるのならば本当に助かる。
「学会はどちらでやるのですか?」
「今回は横浜だね」
「横浜っ?!中華街に赤レンガ倉庫。それにみなとみらいですねっ!」
観光ではないのだが……少しくらいは良いだろう。
「うわぁ。楽しみだなぁ」
ここまで楽しみにしているところに、水はさしたくはないものだ。