稲実のキャプテン福井。彼はなぜ、成宮に対して、自分は彼の「ファン」だと言ったのか。

 

284話を読んで気付いた。私の283話時点での考察は、間違っていた。

 

福井が「ファン」という言葉を使ったわけ。それは、世代ナンバーワン投手の成宮に、自分の立場を自覚して欲しい。そういう気持ちからじゃないか。

成宮は自分のような普通の高校球児とは、まるで違う、「特別な存在」なのだということを。自覚して行動して欲しい。

 

 

成宮は、自分が特別だということ「だけ」は十分気づいている。

そのことに舞い上がり、うぬぼれている。

 

では、「自覚」と「行動」のほうは?

 

成宮は、「特別な存在」にふさわしい行動は、していない。

 

成宮の野球の実力。それが持てる人は、ごく限られた、ほんの少数の人だけ。

全国の高校生で、これほどの投手がどれだけいるか。

彼の世代、高校3年生では彼一人だけ。

 

そのことに気づき、強く自覚すれば、行動も変わってくる。

 

福井は、それを期待していたんじゃないか。

 

 

特別な存在にふさわしい行動をするようになれば、自然とチームを引っ張っていける。チームはもっと強くなる。

 

 

でも成宮は、その事になかなか気づかない。

気づかないまま、

西東京地区の決勝戦になってしまった。

これで負ければ、これが高校最後の試合になる、というところまで来てしまった。

 

 

だから、福井は、もう最後のチャンスだと思って「ファン」という言葉を口にした、のかもしれない。

 

 

 

成宮は、この試合で敵チーム青道に押されて、少しずつ、自覚が芽生えつつあった。---多田野がミスをしても関係ない。俺がバットに当てさせなけれないい。

 

稲実が青道に逆転されて、福井がマウンドに伝令にやってきた。福井は成宮に、自分は成宮の「ファン」だと言った。

 

 

 

 

この時、成宮の中で、

「自分が特別であること」と、

「このピンチを救えるのは自分しかいないこと」とが、

つながったんじゃないかな。

 

自分がやらなきゃ誰がやる、とはっきり自覚したんじゃないかな。

 

直後の成宮のピッチングから、そう思える。

 

自分がこのチームを引っ張っていく。自分がこのチームを勝たせる。

そういう強い気持ちで投げているように見えた。

 

 

 

 

それまでの成宮は、徹底した上から目線で相手のバッターを低く見ることで、相対的に自分の地位を高めていた。でも低く見た相手、青道の打者たちにやられて逆転されてしまった。

 

成宮ほどの実力があれば、上から目線なんて必要ないのに。強がるわりに、自信ないんだな。

 


では、6回表に逆転を招いた成宮の「上から目線」パレード。


最初のバッター、倉持に対して。四球。

 

 2番バッター小湊春市に対して。

 

 倉持に盗塁された時。

 この後、春市がチェンジアップをバットに当て、倉持は三塁へ。

 

次は3番打者白州への投球時。背中に当ててしまい、死球。

 

 白州が死球より打ちたかった様子を見せた時。

この次のバッターは御幸。多田野がキャッチをミスして白州が進塁し、ランナー、ニ塁三塁。成宮はおとなしくなった。追い詰められた。


結局このランナー2人がホームに帰り、稲実は逆転されてしまうのだから、逆転を招いたのは成宮のせい。


 

 

ところで福井は、成宮に「特別な存在」だというようなことを、ずっと言い続けてきたようなのだ。しかも大っぴらに。福井が「ファン」だと言った時に成宮は「それ福ちゃんらしい言葉」というようなことを言ってる。

 

でもそういうことは下級生のいない所で言った方が良かったんじゃないかな。下級生の江崎なんか勘違いしちゃってるようだし。成宮は心底崇め奉るべきスター様なんだって。江崎自身もレギュラー選手だというのに、試合中に成宮に「かっこいいー」って声援していた。冗談でなく本気で。

 

 

その点、市大三高OBの真中のやり方はよかった。彼は天久に対して、自分は天久の「ファン」だと伝えた。近くに人がいない時、天久だけに伝えた。

真中はそうやって、天久は自分とは違う「格別な存在」なのだよーと伝え、プロ入りに向けて天久の背中を押したんだと思う。