取引先の部長から、映画のチケットを2枚もらった。
「いただき物だけど、うちは映画は子どもとポケモン観に行くくらいだし、あげるよ。
彼氏と行ったら?」
いませんよー彼氏なんて、とはしゃぐ振りをしながらいただく。
もらい物を無駄にしないで済んだ、と取引先を喜ばせるのも仕事のうち。
休日は、映画どころかできればずっと寝ていたい。
内容も分からない映画のチケットなんて、もらってあげただけで一仕事終わってる。
そうは思ったけど、せっかくやってきたチケットを、1枚だけでも活かそうかな、と思った。
ローカルな映画で、上映してる映画館が限られてて、ちょっと出かけなきゃいけない。
着替えて化粧して、会社とは反対方向の電車に乗る。
スマホの道案内を見ながら、魚のにおいのする商店街を通り抜けたところに
突然たたずんでいる郊外の映画館。
塩味しか売ってなかったポップコーンを一人でつまみながら、
若手映画監督のデビュー作らしい、熱意と青臭さの溢れた映画を観る。
勢いしかない若い頃って、こんな感じだったな、と思い出す。
翌日、会社に出勤し、ロッカールームで後輩の女の子に
残りの1枚の映画のチケットをあげた。
「いただき物なんだけど、いつもと違うものが観られたの。
一人で行くちょっとした旅にいいと思うよ。」
気まぐれで活かしたチケットに、休日が活かされることもある。
