
一方、少しさかのぼって1581年にスペインから独立したオランダ共和国

1602年には東インド会社が設立されるなど貿易が盛んになり

世界中のものが集まるようになった大航海時代

今夜は、オランダが最も輝いていた17世紀の黄金期の絵画が集まった、
Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の


この展覧会はフェルメールの作品3点を目玉に、テーマを4つに分けて、
オランダ絵画40点が、個人蔵含めて世界中から集結しています

そしてもう一つ大事な


直接に表現するのではなく、ほかの対象となる象徴に置き換えることで本当の意味をほのめかす、
比喩または隠喩という言葉に近く、また象徴そのもののことを言い、教訓や風刺の意味を持つことが多い。
【1:人々のやりとり ~ しぐさ、視線、表情 】
仕事や家事や余暇を楽しむ人々の風景を描いた風俗画のブース
質感まで伝わってくる写実性が魅力で、当時の貴重な資料でもあると思うのですが
ただ市民の日常を描いているのではなく、プロテスタントのオランダらしく
聖書の主題が起源の作品も多く、道徳的なメッセージやオランダに伝わる諺や格言を絵に忍ばせて
人物のしぐさ・視線・表情に、また、日用品や食べ物や動物たちの持つ寓意を隠喩しつつ
『欲望のままに生きる安易な生活を避けなさい』とメッセージを伝えているのです

たとえば「楽器」は、調和や心の通じ合いの隠喩で、音楽そのものは恋愛を意味し、
なかでもリュートは、官能的な恋愛の描写内容を指し示すものとして描かれましたし、
よく見かける何気なく部屋に立てかけられた箒やブラシは、
オランダ人が清潔好きなのと、人の魂の精神的浄化の意味が密かに込められているのです。
左上の絵のお皿の上の「牡蠣」は性的暗示であり、また女性そのものを表すもので
17世紀のオランダでは牡蠣は性的接触の暗示であり、「ワイン」は交友の上での潤滑油を表現しています。
右上の「鳥かご」は、この時代一般的な家財で家庭の徳を暗示しており、
「結婚による愛、その心地よい囚われの身の有益さ」や「自由の代わりに安全を」などの象徴です。そうかなぁ?



左の絵は「ワイン」が女性の心を慰めていて、「蓋の開いた水差し」が女性を意味していると考えらていて
テーブルの上の「陶製の使われていないパイプ」は男性自身を含意しており、
眠る兵士の性的不能と機会喪失を表現しているのだそうで…



右の絵はこのブースにはないものですが、高貴な女性が恋文を読んでいると思われるそばで
紳士たちがトリック・トラック(偶然のゲーム)という遊びをしている様子が描かれています。
女性が抱いている「子犬」は忠実さや献身を表現しており、紳士が興じている「トリック・トラックゲーム」は
幸運というものは恋愛と同じように、移ろいやすく儚いものだということを表現しているのだそうです。深い!

そんなテーマ1で惹かれたのは、クウィレイン・ファン・ブレーケンカムに帰属の
【盲目の物乞い】73.0×62.5cm オランダ文化遺産庁所蔵

威厳を保ちながらも盲目ゆえに困窮した物乞いに、少年が帽子に入れて運んできたベリーを一握り、
ボウルの中に入れようとしていて、その姿を少年の母が温かく見守っている光景。
慈善は17世紀のオランダ社会で重要視され、神によって定められた道徳的な義務と信じられていました。
慈善行為の姿を田舎の情景に意図的に配置することで、その必要性を訴えた絵画なのです。
【2:家族の絆、家族の空間】
オランダ人の家庭には、ともに住む人や出入りする人々との関係性が描かれています。
描かれた人々の様子、服装、仕事の種類、男女の関係、日常生活の様々な場面が表現されています。
既婚女性を描いた作品が多く召使のいる風景も数多く描かれていますが、
現実的には全体の10~20%に過ぎず、当時の女性が家庭の機能を一手に担っていたことが伺え
画家たちがオランダ女性の美徳を称えているのがわかります。
また、当時の人々の暮らしぶりを知るうえでも貴重な資料だと思いました。
こちらはヤン・ステーンの【アントニウスとクレオパトラの宴】81.3×109.2㎝ 個人蔵 ニューヨーク

クレオパトラが足を広げ、胸元を持ち上げている姿に彼女が不道徳な女性であることを表し、
アントニウスのこれ見よがしに鎧兜を身にまとい驕り高ぶった姿を揶揄したものなのだそう。。。
テーマは家族でも、称賛するオランダ女性とは真逆の皮肉が込められている作品ですね。
テーマ2で興味深かったのは絵画そのものよりもそのメッセージが印象的だったこちらの作品
ルドルフ・デ・ヨング【室内の家族】72.5×63.5㎝ アムステルダム美術館所蔵

母親に抱かれた赤ちゃんがぐずり、犬が鳴き、それをなだめようと床に座った姉がガラガラを渡そうとしていて
父親はお菓子をケーキのかけらを赤ちゃんに手渡そうとしていて、音が出ていたならうるさそうな絵なのだけれど
画家はこの絵を通して、母親が子供にとって最良の選択をすることが必要な立場であることを描いています。
この時代ガラガラは、代々受け継がれた家財でした。
ガラガラには感傷的な思い出とともに財産としての価値があり、一家の社会的地位をも示していました。
またオオカミの歯がつけられたことから、子供を悪霊から守るお守りでもありました。
この絵の母親がガラガラを選択することがよい選択であることを示してのだそうです。
また「葡萄園やその木々の剪定」が子供のしつけの比喩であることを考えると、
左上に見える剪定の行き届いていない葡萄を描くことで、躾の必要性をほのめかしているのです。
実際に存在した家族なのか、画家の空想の産物なのかまでは分かりませんが、
この中で一番物事を分かっているのは、どうやらまだ幼い床に座った姉のようですね

ここまで4つのテーマのうち2つを書いただけで、かなりの長文になってしまいました

この展覧会の内容は、記事を2つに分けて、明日続きを書きたいと思います

風俗画なだけに芸術的技術が高いと十分わかっていても、俗っぽい雰囲気や、しぐさや表情が描かれていると
正直、とても好きにはなれそうにもない絵も結構ありました

私が好きになる絵は、部屋に飾りたいと思える絵であり、美しいものや穏やかなものだからです

けれども作品数は少ないけれど、写実的で精緻な絵画を好む私にとって
17世紀のオランダ絵画は最も好きな分野ですからわくわくがいっぱいです

更に、絵画のテーマやその背景を見抜こうとする癖のある絵画鑑賞の仕方をする私にとって、
画家が絵画に隠したメッセージを知ることや見つけることはこの展覧会を一層奥深い時間にしてくれました

【3.手紙を通したコミュニケーション】で目玉のフェルメールの3作品と、
【4.職業上の、あるいは学術絵的コミュニケーション】をご紹介致します


明日の記事につきましてもある程度勉強した上で、私なりに納得した記事を書きたいので
今夜の記事につきましては、大変申し訳ありませんがコメントのお返事をお休みさせて下さいませ

