1.はじめに

 前回の授業実践(沖縄すごろく)を思いつくきっかけとなったのが、今回紹介する「帝国主義すごろく」である。沖縄すごろくを実践したのと同じ勤務校で実施した。勉強が苦手な生徒が集まっている学校だったので、50分間をすべて「チョーク&トーク」の講義形式で展開すると生徒が目に見えて飽きてしまうという問題を当時の私は抱えていた。

 生徒を飽きさせないために、内容も精選して説明は簡略化した。また当時の流行であったアクティブラーニングも積極的に授業に取り入れた。そんな悪戦苦闘の中で誕生したのが、「帝国主義すごろく」である。

2.実践

 帝国主義すごろくは、帝国主義を取り扱っていく単元の最初に導入として実践した。
 ルールはごく一般的なすごろくのルールである。以下のすごろく盤をみてみるとわかるのだが、各マス目にはプラスのマスとマイナスのマスがあり、そのつどお金のやりとりをする。最終的にもっているお金の額が多い人が勝利者となる。
 用意するものは、すごろく盤とさいころ、おもちゃのお金(百均で購入してそれを増刷した)。

3.振り返り

 実践を行った後に生徒に答えてもらったアンケートの集計結果は上記の通りであった。帝国主義を一定程度理解している生徒も1割ほどいたが、単純にすごろくが楽しかったと答えた生徒が大多数(6割)を占めた。またよくわからなかった、その他も合わせて3割程度回答があった。以下、各項目の生徒のコメントを掲載する。
分類①:帝国主義を一定程度理解している(13%)
・日本の歴史ではそれ(帝国主義)で、戦争時代にたくさんなくなってしまったので、帝国主義はダメかなと思いました。
・自分の植民地を増やしていくのが一番印象的でした
・自分が帝国主義の国の指導者になったつもりでやっていました。
・強い国が帝国主義ということがわかりました
・やっていくうちに帝国主義ってこんなにすごいんだなって思った。実際お金をもらって取られてってあったけど、なんか生々しいなとも思ったけど、…
・植民地というワードがいっぱい出てきてたなぁと思いました
 
分類②:単純に楽しかった(60%)
・普通の勉強をするよりもゲーム感覚で授業を受けることができた
・すぐにお金が減ったり増えたりしておもしろかったです。
・沖縄のことをすごろくにしてもよかったと思います。
・他の人とコミュニケーションをとりながらやれたので良かったということを覚えています。
・授業つまらないと頭に内容が入ってこない時がありますが、あんな感じで楽しいと内容も入ってくるし・面白いのでぜひ増やしてほしい
 
分類③:よくわからない内容だった(12%)
・ほとんどすごろくばっかりで、帝国主義のことを気にしていなかったけど、…
・すごろくはゴールがあるのでそれに集中してあまり頭に入ってこないなとおもいました。…ジェスチャーゲームとかもやってみたいです。
・楽しすぎて内容は正直はいってこなかったです。
・何ですごろくだったのかよくわかりませんでした。…植民地とかの授業の内容との結びつきがなかったように思います。
・僕はいつもの授業の方が頭に入るかなと思いました。
 
 コメントや実践した結果を受けて、帝国主義すごろくの主な問題点を2点にまとめた。
①多くの生徒が、「すごろくが楽しかった」という短絡的な感想にとどまったこと
②すごろくが短時間で終わってしまったこと(5~10分程度)
 
 そして反省を踏まえて、帝国主義すごろく ver.2をつくってみた。
 帝国主義すごろくの応用的な展開としては、まず生徒の参加を図るという観点から、帝国主義についてひと通り講義で学習した後に、生徒に教科書を使ってマス目を作成させることがあげられる。また、1位を覇権国家、そのほかを周辺国家と呼んで、まとめで近代世界システム論について説明し、帝国主義すごろくから、グローバルヒストリーを考えることも可能であろう。マス目に書いてある内容から、大航海時代と帝国主義の時代との差異を考えさせることもできる。東南アジアルートでは植民地がつくられていないこと、反対に南米ルート以降では植民地が形成されていることに着目させる。今回の実践は「帝国主義者」の視点を生徒に体験させた。次回の授業では帝国主義支配の実態を示す資料を提示して「被支配者」としての視点を生徒に与えることで、生徒の視点の転換を図ることもできる。