◎さけのうた
『日本書紀』崇神天皇八年十二月
この神酒(みきは我が神酒ならず大倭(やまと)なす大物主の醸(か)みし酒(みき)幾久幾久(いくひさいくひさ)
*「乾杯」をやめて「幾久幾久」と言ひて盃捧げむとすれど、いまだ普及せず。
『万葉集』巻3、大伴旅人「讃酒歌」巻三
―太宰帥大伴の卿の酒を讃めたまふ歌十三首(338)
験(しるし)なき物を思はずは一坏(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあらし(339)
酒の名を聖(ひじり)と負ほせし古の大き聖の言の宣しさ(340)
古の七の賢(さか)しき人たちも欲(ほ)りせし物は酒にしあらし(341)
賢しみと物言はむよは酒飲みて酔哭(ゑひなき)するし勝りたるらし(342)
言はむすべ為むすべ知らに極りて貴き物は酒にしあらし(343)
中々に人とあらずは酒壷(さかつぼ)に成りてしかも酒に染みなむ(344)
あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む(345)
価(あたひ)なき宝といふとも一坏の濁れる酒に豈(あに)勝らめや(346)
夜光る玉といふとも酒飲みて心を遣るに豈及(し)かめやも(347)
世間(よのなか)の遊びの道に洽(あまね)きは酔哭するにありぬべからし(348)
今代(このよ)にし楽しくあらば来生(こむよ)には虫に鳥にも吾は成りなむ(349)
生まるれば遂にも死ぬるものにあれば今生なる間は楽しくを有らな(350)
黙然(もだ)居りて賢しらするは酒飲みて酔泣するになほ及かずけり(351)
新しいとことで……
○さかづきをむかふの客へさしすせそ
いかな憂もわすらりるれろ(大田蜀山人)
○時ありて猫のまねなどして笑ふ
三十路の友が酒飲めば泣く(石川啄木)
○酒飲めば心なごみてなみだのみ
かなしく頬を流るるは何ぞ(若山牧水)