◎日本神話の特長
神話とは「世界や人間や文化の起源を語り、そうすることによって今の世界のあり方を基礎づけ、人々に生き方のモデルを提供する神聖な物語」(吉田敦彦・松村一男『神話学とは何か』昭和六十二年、有斐閣)であると定義できます。日本の神話も、『古事記』『日本書紀』に日本の国土や神々の誕生、死や穀物の起源、皇室が日本の国を治められる起源が語られています。
『古事記』は、奈良時代初期、和銅五年(七一二) に太安万侶が撰録して、第四十三代元明天皇に献上しました。今年はちょうど『古事記』撰上千三百年に当たります。上・中・下の三巻からなり上巻が神話の部分です。上巻は、天地の初めから神倭伊波礼毘古命(神武天皇) の誕生まで、中巻は、初代の神武天皇から第十五代応神天皇まで、下巻は、第十六代仁徳天皇から第三十三代推古天皇までの記事を載せています。
一方『日本書紀』は、養老四年(七二〇)に完成したわが国最初の官撰の歴史書です。全三十巻のうち、巻第一「神代上」、巻第二「神代下」が神話の部分で、「神代紀」・「神代巻」とも称されます。巻第三は神武天皇の巻となっていて、以下第四十一代持統天皇の時代までを扱い、同天皇から第四十二代文武天皇へ皇位が譲られた記事でしめくくられています。編集責任者は舎人親王です。『日本書紀』には、さまざまな異伝が載せられていますが、その中には、所謂「天壌無窮の神勅」「同床共殿の神勅」「斎庭之穂の神勅」「神籠磐境の神勅」なども含まれています。これらもあわせ見るべきです。
日本神話の特長は、神話に語られている事柄が現在も生きて存在するところにあります。天地の始めに生まれた国土は、今も変わらず日本の国土ですし、神々の系譜は皇室の起源と直接繋がっています。神話に現れる神々は、現在も全国の神社で祭られており、神話をモチーフとし、また神話に起源が語られている祭祀や神事も、宮中や伊勢の神宮、さらには全国の神社で執り行われています。日本神話は、神々の御名や性格、行為などを通して、神道の信仰と祈りの基本的・典型的な性格を伝えています。
つまり、日本神話は死んだ過去の説話ではなく、現実に生きてはたらいている神聖な物語と言えましょう。
このように、私たちにとって神話は単なる伝説や昔話ではなく、日本人の祖先以来受け継がれてきた心との出合いの場と言えます。すなわち、私たちの祖先がどのような世界観、人生観をいだいていたのかを知ることのできる真実の物語です。私たちの文化・信統の根底にある、いわゆる日本民族の心を宿しているものが神話であるといえましょう。