星付きの日本料理屋「ひら田」の前を、
車で通っていた時のこと。
信号が赤になり、
ちょうどひら田の前で停車した。
お店の前でご主人が直立不動のまま、
唐津城の方を向かれていた。
彼が向いている方向の約10m先に、
女性が2人並んで歩いていくのが見てとれる。
食事を終えたお客様をお見送りしているのだろう。
彼はずっと動かぬままお見送りしていた最後に、
その2人の背中に深々とおじぎをした。
名店と呼ばれるご主人の姿勢
というものをそこに感じた。
その光景を車窓越しに見ていた時、
ふと青森に住んでいた時のことを思い出していた。
その当時私は、
「DIVE」というステーキハウスで働いていた。
今からもうかれこれ15年くらい前の話だ。
人口30万くらいの小都市で、
1人当たりの平均客単価が1万2千円という、
当時としては破格の高級店の店長
を任せてもらっていた。
その店で私も全く同じように、雪の降りしきる中
お客様が見えなくなるまで、
ずっとおじぎをし続けていた。
今振り返ってみれば、
それは逆にこれ見よがしの行為
だったようにも思える。
しかし、自分の感謝の気持ちや誠意を
伝えたかったということは、
今でもしっかり覚えている。
なんせ4人で食事しただけで、
5万円近くかかってしまうのだから。
青森のような小都市に、
そんなお金をポンッと出せるような
お金持ちが、ゴロゴロいるわけがなかった。
そんな店を存続させていくのは大変だった。
「大変」という二文字だけでは、
本当に語りつくせないくらいだったのだ。
だからどんなに寒くても、
見えなくなるまで
おじぎをし続けていたのだろう。
そんな気持ちとはうらはらに、
私がお客様を見えなくなるまで見送りを
していたことに、お客様自身は
全く気づいてなかったかもしれない。
でも今の私のように、見てくれている人は
きっといたんだろうと思う。
「ひら田のご主人のその雄姿、
しっかり見てますよー!」
と1人こころの中でつぶやき、
エールを送った。
見てくれている人は、ちゃんといる。
移転後も益々のご活躍を
こころより祈念致しております。