木村琢麿『ガバナンスの法理論』 | (元)無気力東大院生の不労生活

(元)無気力東大院生の不労生活

勤労意欲がなく、東京大学の大学院に逃げ込んだ無気力な人間の記録。
学費を捻出するために、不労所得を確保することに奮闘中。
でした。

 木村琢麿『ガバナンスの法理論』を読了。


 この本は行政法学者による専門書であり、オーリウを中心とするフランス行政法の研究を参照にしながら、行政が行うべき業務の外延について考察されます。

 第三章の標題が「行政における民間委託の可能性」であり、これがこの本のテーマを一番表していると思います。

 具体的には、主に租税行政や港湾制度についての考察がなされています。

 この分野に興味がある方であれば、興味深く、勉強になる本です。


 ひとつだけ、私の批判点を。


 題名に「ガバナンス」という語を用い、本文中でも「ガバナンス」が盛んに登場しますが、この本の冒頭でなされる「ガバナンス」の用語の定義が「甘い」です。

 「ガバナンス」については、多くの研究の蓄積があり、実際にこの用語が指す概念は極めて多様です。そして、そのような多様な概念を手際良くまとめた研究もありますが、その研究が何故か参照されていません。「ガバナンス」という用語を使用する以上、必ずや参照にすべきと言って良い文献が複数ありますが、それが参照されていないと私は考えます。例えば、Rhodesあたりは、最低限、注で触れるべきだと思いますが、、、、

 その結果、著者の記述に都合の良い「ガバナンス」概念に基づいて、後の議論が進められている印象が最後まで残り、違和感を感じながらの読書でした。

 勿論、多様な「ガバナンス」概念の中には、著者が採る立場も存在するので、この本の記述は間違ってはいませんし、ひとつの立場として大変参考になる議論が展開されますが、多様な概念の中で、何故その立場を採用するのかは丁寧に書いておくべきだと私は考えます。これをしないと、「ガバナンス」という用語の使用が盛んなので、無理やり自分の研究に引きつけたと批判されかねません。


ガバナンスの法理論―行政・財政をめぐる古典と現代の接合/木村 琢麿
¥4,725
Amazon.co.jp