安藤馨『統治と功利』 | (元)無気力東大院生の不労生活

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勤労意欲がなく、東京大学の大学院に逃げ込んだ無気力な人間の記録。
学費を捻出するために、不労所得を確保することに奮闘中。
でした。

 安藤馨『統治と功利』を読了。


 随分と歯応えのある本でした。評判になっていた本だったので、部分的には目を通していましたが、今回通読しました。


 この本は、著者の安藤氏が東大に出した修士論文なのですが、修士論文の域を質・量ともに越えています。博士論文を本にしたものを私も数多く読んでいますが、それらと比較しても遜色ありません。

 ただし、書き方というか、議論の展開に少々難があると思います。議論の流れは、随所で示されるのですが、その通りに進んでいるとは思えない議論の展開に何度か私は迷わされました。


 この本が行おうとしていることは、著者自身が的確に示しているので、それを引用しておきます。

 「功利主義を内在的に検討することで、説得的な功利主義構想としての古典的功利主義を統治功利主義として再構成することを試みた」(本書293頁)

 そして、功利主義に対する批判に応えることで、功利主義にコミットする理由を示して行く。

 この批判への応答を通して自身の立場を擁護するという試みの部分で、議論の流れが少々把握しにくかったです。


 他にも、細かい点を挙げれば、論拠が必ずしも十分ではないにもかかわらず言い切ってしまっている部分が、議論の重要な展開を見る部分で見受けられたり、問題点がなくもないですが、それでも、広範な文献を参照しつつ、自身の立場をある程度説得的に提示しており、スリリングで興味深い本です。

 しかし、間違いなく、少しでもこの分野についての基本的知識がないと、何が書いてあるのか、まったく理解出来ないはずです。また、本書のあとがきで、著者が自身の指導教官である井上達夫先生から、「方向性からなにからまったく間違っている」という評価を受けたとの記述がありましたが、このように、専門家であっても、この本については評価が大きく分かれると思います。


 そろそろ秋なので、秋の夜長に、難しい本でも読もうという方にはお勧めの本です。


統治と功利/安藤 馨
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