では、前回予告しておいた自衛隊における例を見てみましょう。自衛隊は現在まで多くの海外派遣を行ってきました。そこでの一つの教訓事項です。優秀な語学能力を持つ隊員を選抜してアフリカに派遣したときの実話です。皆、語学に関しては問題ありませんでしたから、対外的交渉・調整等の任務、実際人道見地に立った支援等は円滑に遂行できたのですが、ことチームとして任務を行う際多くの問題が生起したのです。それは、チームの輪を乱す自己中心的な隊員の存在でした。確かに彼の語学能力は抜きん出ていましたが、それを鼻にかけ越権行為のようなものが散見されるようになり、影の指揮官のようになっていきました。また、能力があるため他の隊員を見下す、軽蔑する、差別するなど自衛隊員らしからぬ行動・態度がチームの団結を乱していきました。
このような隊員が、有害なリーダーシップ(トキシック・リーダーシップ)を発揮していくと部隊は上手く動かなくなっていきます。通常、海外派遣は半年の期間を目途に派遣されていきますから、地獄の6ヶ月となっていくわけです。
通常の訓練環境ではなく、実際に付与された過酷な任務を海外で遂行していかなければいけません。環境も変われば、十分な兵站機能を期待することもできません。また、任務の対象となる国、国民は日本や日本人とは大きく異なるわけです。様々な制約や規制が伴う環境の中で隊員は任務に邁進しなければならないのにも関わらず、部隊内が健全なリーダーシップにより統率されていなければ悲惨な空気が漂い、士気も下がっていくのは必然です。
自衛隊では常にリーダーシップ教育をしているわけでもなく、十分な精神教育を実施しているとは言い難いのが現状だと思います。また、幹部自衛官の転属は十分に行われてはいると思いますが陸曹の転属は予算の関係もあり十分に行われているとは言えません。従って土着民族状態の陸曹が多くおり、そのような陸曹に限って有害なリーダーシップを発揮したりします。新しい血の循環が無いため動脈が硬化していく現象が多くの地方部隊で散見されます。そのような現象は指揮統率に悪影響を及ぼし、厳格な指揮系統がぐらつく原因となるのです。これらの事例から考えても資質教育はしっかりとしなければなりません。また上に立つ人間も自らの向上に努めなければ上手くいかないのです。
このような経験から言えるのは、識能教育も重要ではありますが、資質教育が非常に重要だと言えるのです。これからの時代、特に、私達は、人間として生きていく上で自分の使命・役割というものを常に考えながら生きていく必要があると思っています。それら重要な命題について思考を重ねていけば、自ずから何の勉強をし、何を習得していかなければならないかが理解できていくと思っています。それぞれの人間は、それぞれの役割があるでしょうし、それぞれの能力があると思います。しかし、我々は自分を高めるために修行をしていかなければならないでしょう。行を積むということをし続けていくのが人間の人生の一つの面であると思っています。
現代は、スピードの時代ですし、即、見える結果を求められると言えます。しかし、もう一度立ち止まらなければなりません。小手先だけでテクニックを学び、即結果を出すだけでは、社会は立ち行かなくなっていきます。長いスパンで見ていく必要があります。俯瞰で物事を見る癖を付けなければなりません。そして人間として精神的に自分を高めていくことがより良い社会の形成に繋がっていくのだと思っています。この点に重点を置き、新事業についてM女史とお話をさせていただいたのです。
続く