今から12年前の春、まだ花粉症を発症していない34歳、意気揚々と仙台駐屯地の門を潜り第2陸曹教育隊共通中隊で実施される陸曹初級英語課程というところに教育入校しました。
この課程で初めて軍事英語なるものに手を付けていくわけです。
航空自衛隊でも英語はやりましたが、それは如何せん航空無線通信士の資格を取得するための法律英語を読み解く力を伸ばしただけのものでしたし、航空管制用語は決まった用語だけを覚えていけばよかったため、そんなに応用が利くような英語の勉強ではありませんでした。
ここでは、軍事英語に触れることが出来ると考えていましたから本当に気持ちが充実していたことを覚えています。
何せ、日米共同指揮所演習では苦汁を舐めさせられましたから、ここではしっかりと履修しようと考えておりました。
入校した学生は15名です。ほとんど3等陸曹という若い陸曹で構成されておりました。
その中で、私は、2等陸曹ということで学生長に指名されました。
これから3ヶ月、教育終了までの間、この課程を長として引っ張っていかなければなりません。
区隊長はA1尉という部内選抜で幹部に任官した方でした。
そして、実際にほとんどの課目を担当するのが2等陸曹の2名の助教でした。
この3人で、15名を3ヶ月間教育していくのです。入校当初、先ずオリエンテーションが行われました。
そこでは、陸上自衛隊における英語教育の概要について説明されました。
では、皆さんに陸上自衛隊における英語教育の概要についてちょっと情報を提供していきたいと思います。
陸上自衛隊は5コ方面隊及び中央即応集団(当時はまだ発足していなかった)で構成されております。
北方、東北方、東方、中方、そして西方というように地理的区分で管轄区域を分け、それぞれの地方を方面隊が防衛担任しているわけです。
各方面隊は、陸曹教育隊という陸士から陸曹候補生に選抜された隊員を教育し、3等陸曹に育てる教育隊を保有しております。
その当該教育隊において陸曹に対し基礎レベルの英語教育が行われているのです。
この陸曹基礎英語課程はBEE(Basic Enlisted English) Course と英語では訳されております。
BEEですので蜂っぽいですが、誰もそんなことには触れないのが自衛隊なのです。
1年で3ヶ月の課程3コ期を担任するわけです。
定員割れの場合もありますが、通常15名前後の陸曹が学生として教育入校します。
3コ期ですので、1年間に約45名の学生が基礎レベルの英語教育を修学し卒業します。
全部で5コ方面隊ありますので、45名×5で225名前後の陸曹が全国で毎年、基礎レベルの英語を学んでいるということになります。
この225名のレベルも様々です。
英語が全く理解できていない隊員から、かなり理解してTOEICでもかなりの高得点を達成している者まで混在しております。
では、陸上自衛隊の英語教育の概要について少し触れておきましょう。
この基礎英語課程を修了した隊員のうち、成績優秀と認められ、部隊の人事的に問題ない(部隊の状況によっては、優秀な成績を修めた者であっても部隊の都合上、次のレベルの教育入校に関する上申が出来ない場合がある)場合は、東京の小平市に所在する陸上自衛隊小平学校で行われている陸曹普通英語課程に進むことが出来ます。
この普通課程は、PEE(Primary Enlisted English) Course と訳されており、英語的にはおしっこという意味になってしまいますね。
でも誰も気にしてはおりません。
このPEE も年3回、開校される教育で、1コ期約40名の学生で構成されます。
従って1年間でPEEを卒業する学生の数は120名ということになります。
全国のBEEの卒業生数が225名、PEEの卒業生の数が120名ということで約5割の隊員が次のレベルの教育に進むことが出来ます。
次のレベルは陸曹上級英語課程となります。
ここが、陸曹のための軍事英語教育の最高峰の課程となります。
英訳では、AEE(Advanced Enlisted English) Course となります。
このAEE は、1年に1コ期のみ実施されます。
定員は40名となります。
AEEを希望する隊員は非常に多く、概ね過去5年間のPEE卒業者の中からPEEの時代の成績、TOEICの成績及び人物評価を加味して定員が選抜されます。
また、部隊の諸事情もあり、隊力的(人員の充足状況)に当該隊員を入校させることが出来るか、どうかも絡んできます。
ですから、AEEへの入校は非常に狭き門と考えていただいて結構です。
また、AEEを修了し、通訳専門の技術を付与すべく設立されたEIC(English Interpreter Course)という教育もあります。
そこは、軍事に比重が置かれているというよりも通訳技術に特化した教育が行われているところです。
これが、陸曹に対する英語教育の概要です。
私がBEEに入校した頃は、まだこのEICという教育は存在しておりませんでした。
従って、AEEが陸曹に対する英語教育の最高峰であったわけです。
勿論、私は、そこに入校することを念頭に入れてこのBEE課程に入校したのでありました。
つまり、BEE、PEEで優秀な成績を修めなければAEEへの道は無いということです。
そのことを考えただけでも気合が自然に入ってきたものでした。
この英語教育の概要に関するオリエンテーションから始まり、毎日の起居に関する規則、教育のマスタースケジュールに関する説明を受け、ここでの英語漬けの日々が始まろうとしていました。
ここをしっかり卒業して管制官以外の道を模索し、日米共同の舞台に立っていけるように自分を変えたいと決心を新たにしていたのです。
続く