【加点とダウングレード:前編】

11/28~30
NHK杯。

この試合で未央は優勝する。
ショート、フリー共に1位になった。

練習の成果は出て、ノーミスの演技だった。

「牧原さん!未央ちゃん!やりましたね!」

アシスタントの坂井君が 言ってきた。

「あれ?牧原さん、難しい顔して、喜んでいないのですか?」

「これからの未央のスケジュールを考えると喜んでばかりもいられないさ。
それと…」

「それと…何ですか?」

「ショート、フリー共にノーミスだったのにも関わらず、点数が低い。」

「えっ?191.13じゃないですか。
高得点ですよ?」

「NHK杯の前に、アメリカで行われた試合では、キム・ヨンアが193.45で優勝しているんだ。」

「へぇ。すごいな。
トリプルアクセルを2回決めた未央ちゃんより上だなんて。
どんな凄い演技なんだろう?
ねぇ、牧原さん、未央ちゃんが点数で負けてるからってガッカリしないで、
ちょっとキム選手の演技見てみましょうよ。
最近はPCで見れるみたいですよ。」

「そうだな。まずは敵を知らなければ始まらないよな。」

そう言って、僕達はノートパソコンを取出した。

「YouTubeで検索して…あっありました。2008年アメリカ、ショートもフリーも。」

「よし、じゃあ見てみるか。未央より凄い所はどこなんだろう。」

そう言って、僕達は動画を見た。


「なっ何ですか…これは…。こんなっ!こんなバカな!!」

坂井君が青ざめた顔で叫ぶ。

「ありえない!牧原さん!うそでしょう?!
この演技が、193.45だなんて!
彼女、ショートではジャンプ失敗して手をついていますよ!
フリーでは一つジャンプを飛んでない!!」

僕達が見たものは。

モンスターだった。

キム・ヨンア

ショート:ジャンプの失敗でお手つき。

フリー:ジャンプが抜けた

明らかな失敗が2つもあって、トリプルアクセル2回も含むノーミスの未央より点が高い。



「牧原さん!なんでこんな事が!
彼女は2回も失敗をしてるのに、未央ちゃんはノーミスで、ショートだって3‐3も決めて、フリーではトリプルアクセル2回も決めたのに!!!」

噂では聞いていたが。
これほどまでとは。

「加点とダウングレードだよ。」

僕は呟いた。

キム・ヨンアがモンスターなのではない。

どうやら敵は彼女だけではないようだ。

「坂井君。どうも僕達は凄い暗闇の世界に足を突っ込んだようだ。
とにかく、未央を全力でサポートしないといけない。
動画解析室で分析しよう。
あとフィギュアスケートのジャッジについても調べよう。
落ち込んでる場合じゃないよ。」

きっと未央の方が僕達の何倍も落ち込んでいるだろう。
だから、キスクラで暗い顔をしていたのか。

ダウングレードされたと言っていたが、明らかな失敗2回よりも、大きく減点されるなんて。

「どうすればいいか考えよう。僕達はやるしかないんだ。」


未央が諦めていない限り。

だけど、何をどうすればいいのだろう。


いや

考えなけば

考えなければならない。


後10日ほどで

キムと対決するのだ。

それも韓国で。


つづく。
IS(アイエス)のドラマが終わって、原作を読んだ。
ショックだった。

あれほど思い合っていた伊吹君が、春を守れるよう強くなるためとか言って引っ越ししたのに。

5年後に気持ちが変わってなかったら会おうと約束したのに。

5年後、春は待ち合わせ場所で待っていたけど、彼は来なかった。

実は彼女が出来て、彼女と体の関係もあって、一緒にも暮らしてた。

5年の間で変わったんだとショックを受けた。

現実的ではある。

5年も離れていたら、
近くで励ましてくれる女性に心が動くのは当然だ。

むしろ、高校時代の初恋を思い続ける方がありえないだろう。

だけど

だからこそ

せめて

フィクションでは
あって欲しかった。

見せて欲しかった。

5年間、思い続けてたくましくなって、春の約束守って再会する事を。

漫画的にも、再会果たせない、彼女が出来てたという方が、読者の注意を引いていいのかもしれない。

でも私個人としては


夢を見たかった。


原作ではその後、偶然に再会する2人。

最後は
伊吹君は彼女と別れて(彼女の方が伊吹がまだ春の事を好きだと気が付き身を退くのだが)
何年か過ぎ、また2人は偶然に再会し、今度こそ2人は一緒に歩むのだけれど、ハッピーエンドなのだけど

私は、伊吹君に裏切らた気持ちでいっぱいだ。

私だったら吐き気がする。
違う人見つける。

もしくは、フィクションだからこうする。

5年間、春と再会する事だけを励みに勉強に打ち込む伊吹君。

周りの中傷など気にもしないで。

会社に勤め出して
力をつけて帰郷する。


春との約束を果たす為に。

感動的な再会。

お互いに思い合って、一緒に歩んで行く。

それで、エンド。

ハッピーエンド。


原作と比べたら、ドラマの方がずっといいビックリマーク

ずっと明るい。

希望を持たせてくれる。

愛を信じ

夢を見させてくれる。


現実は厳しくて残酷だから
せめて、フィクションでは
夢を見たいのだ。

漫画は残念だった。

でも、おかげでISについて知る事が出来たのは良かったかもしれない。

もし、友人や親族にそういう子供が産まれたら、驚かないで受け入れようと思う。

そして

「男でも女でもないなんて、天使と同じだね。」

って言ってあげたい。

【殺人スケジュール】


映像を見て、未央のいつもとは違う緊張している様子を見た。

練習では飛べているのに、試合では3回転が1回転になったり、転んだりしていた。

初戦の為か緊張してか、未央は飛べなかった。

技術的には問題はない。あとはメンタル面だ。

僕はそう分析した。

平常心であれば、うまく行くはず。


フランスから、未央が帰国後、練習方法を少し変える事にした。



試合では6分間の練習の後直ぐに競技する者と
6番目最後に競技する者とでは約1時間もの差がある。

その間に体が冷えきらないようトレーニングするのだが、
練習の時も本番と同じように6分間練習の後、
直ぐに滑るバージョン、
2番目に滑るバージョン、3番目といったように擬似体験できるようにした。

万全を期して次の試合に臨む、NHK杯。

この試合で優勝すると、
12月10日に韓国で開かれるグランプリファイナルへ出場が決まる。


未央の今年の試合日程は
11/14~16
エリック杯(フランス)

11/28~30
NHK杯(日本)

12/10~14
グランプリファイナル
(韓国)

12/25~27
全日本選手権(日本)

2/2~8
四大陸選手権(カナダ)

3/23~29
世界選手権(ロサンゼルス)

1月までは月に2回も試合がある殺人スケジュールだ。
世界選手権の為、グランプリシリーズは飛ばす選手もいるのに、未央は全て出場する。

ジャンプがボロボロだったエリック杯。

そして、12日空けてNHK杯。

NHK杯で優勝したら、グランプリファイナルへ出場だ。

出場できたとして、この試合までも10日間しか休みがない。

オーバーワークだ。

怪我でもして選手生命が終わりでもしたら…。

優勝してもきつい。

負けても常勝が期待されている未央だ。
マスコミからバッシングされるだろう。


何度見ても、このスケジュールはないな。

だが、オリンピック前にして良い成績を収め、
優勝候補である事を国内外に知らしめなければならない。

やるしかないのだ。

こんなキツいスケジュールでも。

「こんなスケジュール、未央ちゃんだけよ。
NHK杯優勝しなくても、全日本で優勝すれば世界選手権行けるじゃない。
未央ちゃんにはグランプリファイナルに行かないで、休んでほしいわ。」

栄養士の、ここなさんだ。

「僕もそう思います。
ただそうなるとマスコミが不調だの騒ぎ立てて、どんなバッシングをされるか…」

僕としては、未央の身体の負担を思えば、次のNHK杯優勝しなくても、いいと思う。
だが、オリンピック前哨戦の今、
常勝の二文字で華々しくアピールする事も大切だ。

次のNHK杯
どっちに転んでも
イバラの道だ。


「ここなさん。未央が前を向いている限り、僕らも全力でサポートしましょう。」

そうだ、未央はNHK杯に向けて力を尽くしている。
どんな結果になろうとも、未央をサポートし付いていくだけなのだ。

つづく。