最近本当に仕事が忙しくて。お返事がままならなくてごめんなさい。コメント、メッセージ、どれも本当に大切に読ませていただいています。こんなことを言ったら重いかもしれないけれど、この文章も、これを読んでくださっているお一人お一人を私なりに思い浮かべて書いています。

 

みなさんは財前五郎と聞いてどんな人間を思い浮かべますか?そうです、白い巨塔の主人公の、あの財前五郎です。消化器外科医でありながらキャリアに命を捧げた結果、自らの胃癌に気づかずじまいで亡くなった財前五郎です。

 

恥ずかしながら私は原作を読んだことがないのですが、唐沢寿明演じる財前を小学生の頃に見て、こんなに憎たらしいキャラクターをなぜこんなにも愛し応援してしまうのだろうと不思議に思いながら、毎週ドラマの放映を楽しみにしていました。財前は倫理的には多くの罪を犯した男でした。でも自分の欲求には誰よりも正直な男だった。医師の職業倫理に反してでも手に入れたいものが彼にはあって、彼はそれを曲げませんでした。どんなに泥だらけになっても、孤独に苛まれても、教授職に執着し続けた。

 

一方で財前を正そうとする里見は、絵に描いたような素晴らしい医師でしたね。愛する妻と息子までいて、彼らとの時間を犠牲にして患者を優先させることに罪悪感を抱きながらも、医師としても夫としても父親としても理想そのまんまの男。

 

幼い私は、そんな里見が財前に振りかざす正論に、強い反感を抱くことすらありました。

 

大袈裟かもしれないけれど、私にとって、今のグクはかつての財前です。

 

彼がラジオで「彼女はいない宣言」をしたこと、ファンが一番だと言ったこと。それに心を痛める女性ファンは多いのかもしれない。

 

ファンはいつでもファンをやめられる。そんな幻のような存在を最優先にする人生なんて虚しい。「BTSはARMYという名の幻の上に成り立つ存在である」と数年前に言い放ったナムジュンなら、そんなことを幾度か考えたことはあるかもしれませんが、グクがファンを一番だというとき、彼にはそんなに深い考えはないのではないかと思います。

 

実際、彼は宣言の後に「今は仕事が一番だから時間もないし、誰とも付き合いたくない」というようなフレーズを添えていますね。

 

この感覚、多くの女性には理解できない心境なのかもしれませんが、私にはよーーーーくわかります。

 

アイドルとファンの関係って、少しだけ医者と患者の関係に似ていると私は思っていて。患者さんって病気の時は医者に縋ってくるけど、治れば薄情なもので医者なんてどうでもよくなる。でも私はそんな関係でも価値を見出して、生活の大部分をそこに割いて生きています。病気の苦しみを物理的に取り除く技術をもって寄り添えるのは医療者だけだと自負しているから。家族が病院を去った後、患者さんが夜中に痛みに襲われ孤独の谷に突き落とされるとき、あるいは突然の大量出血で生死の間を彷徨う時、そこにいられるのは医療者だけだから。家族より医療者の方が患者さんの「近く」にいられる瞬間というのは確かにある。それは本当に特権だと思っているから、病気が治った後に患者さんに忘れ去られるような存在だとしても、私は別にいいです。

 

先日、担当していた末期癌の患者さんが、自分はもう戦いを終えて家に帰りたいと、集まった家族に話しました。これ以上は闘えないと。私は精一杯やったし、それを受け入れるのは家族としては難しいかもしれないけれど、どうか受け入れてほしい、と3人の娘と息子と夫に話しました。その時に、患者さんは「あなたたちは一人ではない」と言いました。私が亡くなるのは悲しいことだけれど、あなたたちはお互いを支え合うことができる、と。

 

翻って、これを書いている私自身は、一人っ子だし、恋人はいないし、親が亡くなる時も自分自身が死ぬ時も、一人かもしれないと思うことがよくあります。夜中に目が覚めては、軽く震えます。

 

上記の患者さんが退院する日の朝、ふとそんな話をしたら、彼女はこう言いました。「その時が来たら先生にも誰か支えてくれる人がいるはずだから大丈夫よ」と。それは遠い友人かもしれないし、思わぬ存在かもしれないけれど、誰かが隣にいるはずだし、最期の時を受け入れられるように神様が導いてくれるはずだと。自分も今まで、最期を受け入れられる時が来るなんて思っていなかったけれど、神様がずっと「準備」を手伝ってくれていたのだと思う。私は今、幸せだし、自分が強くなるべく人生は続いていくのだと彼女は言っていました。米国人にとっては発音が難しい私の苗字を覚えてくれた最初の患者さんでした。

 

ジョングクはABGが差別用語だと知らなかったのでしょう。これまでBTSが韓国を代表して、あるいは国連で立派なスピーチをして、ホワイトハウスで米国大統領と対談をして、アジアンヘイトに抗してきたことは、彼自身にとってはキャリアのハイライトではなかったのでしょう。これは、彼を馬鹿にしているわけでもなんでもなくて、だって彼はアイドルを目指して13歳から働いてきたわけで、英語で歌うことはできても、英語を自在に話せるわけではないし、国際政治にも人種差別にも女性蔑視にも特に関心がないとしても不思議ではない。

 

でもそんな彼でも、ファンが幻に過ぎないということぐらい、わかっていると思いますよ。自分が「永遠に」愛される存在でないこともわかっている。

 

だから、ABGなんかクソ喰らえなんですよ。

 

女性を性的対象として蔑むような歌詞を書くHarlowでも、耳障りの良いラップ詞とリズム感を特徴とするアーティストという一面だけをとっても、グクにとって憧れだったのはわかります。一旦コラボすると契約をした後に、出来上がった歌詞にどれだけ書き直しを要求できるものなのかは、もちろん私にはわからないし、差別用語があってもなお、Harlowと作品を作り上げることにこそ意味があるとグクが思ったのだとすれば、それはそれで私にはよく理解できる。

 

でもそんな認識すらないままに、3Dもまた米国市場を乗っ取るための布石としてしか考えていなかったとしても、別にいいんじゃないかと私は思う。

 

一通りBTSのソロ活動を遠くから眺めて、KPOPの枠組みを超えて「洋楽アーティスト」として認められるメンバーがいるとしたら、正直、ジョングクだけだろうなと私は思いました。Sevenの時は彼さえ無理なんじゃないかと思いましたが、3Dを見て、私はジョングクならアジア人初のティンバレイクになれる可能性は残されていると思いました。

 

なぜなら、ジョングクが得意とするジャンルで右に出る人間が今、世界には一人もいないからです。私が知る限りではありますが。

 

BTSファンとしてはめちゃくちゃ辛口のことを書きますが、他のメンバーが目指しているジャンルは、トップオブザトップがまだ上にうじゃうじゃいますよね。でもジョングクは自分が得意とする分野をよく理解しているし、幸運なことに、彼はこの分野に限って言えば、今、トップオブザトップではないでしょうか。

 

だからHarlowもグクと組んだ。

 

倫理も道徳も主義も道義も捨てて世界のトップを目指すというのは、それはそれでいいんじゃないかと私は思います。財前がカルテを改ざんしてでもとことん教授職にこだわったのと、ジョングクが世界のトップを目指すのは、同じことのように私には感じられます。

 

そして、私はそんな今のグクのことも、財前のことも、愚かだとか不幸だなんてこれっぽちも思いません。

 

ドラマのラスト、財前は里見にこんな手紙を書きます。

 

里見へ 

この手紙をもって僕の医師としての最後の仕事とする。 
まず、僕の病態を解明するために、大河内教授に病理解剖をお願いしたい。 
以下に、癌治療についての愚見を述べる。 
癌の根治を考える際、第一選択はあくまで手術であるという考えは今も変わらない。しかしながら、現実には僕自身の場合がそうであるように、発見した時点で転移や播種をきたした進行症例がしばしば見受けられる。その場合には、抗癌剤を含む全身治療が必要となるが、残念ながら未だ満足のいく成果には至っていない。 これからの癌治療の飛躍は、手術以外の治療法の発展にかかっている。 僕は、君がその一翼を担える数少ない医師であると信じている。
能力を持った者には、それを正しく行使する責務がある。 君には癌治療の発展に挑んでもらいたい。
遠くない未来に、癌による死がこの世からなくなることを信じている。
ひいては、僕の屍を病理解剖の後、君の研究材料の一石として役立てて欲しい。
屍は生ける師なり。 
なお、自ら癌治療の第一線にある者が早期発見できず、手術不能の癌で死すことを心より恥じる。 

 

財前五郎

 

財前が自分の体調をも省みる余裕さえ失うほどにキャリアに執着し、最終的に自分の敗北を認めたように、ジョングクもいつか終わりが来ることを誰よりもよく理解しているのだと思います。

 

どんな犠牲を払って手に入れたとしても、それが一時的な栄光に終わることを彼は、ソロ活動の渦中にいる今、これまで以上に強く感じている。ファンがいつか自分の元を去る日が来ることもわかっている。

 

だからこそ、彼は「今」仕事のために生きたいのでしょう。「仕事を最優先にする」というのが彼の職業上、やむをえず「ファンを一番に考える」という表現につながるだけで、彼は別にファンのために生きているわけではないですよ、私に言わせれば。

 

彼はあくまで自分の夢のために生きてるだけで。

 

女性蔑視なんかどうでもよく思えて、かつてのBTSの「哲学」さえ無意識のうちに踏み台にできるぐらい、彼は今、無知で夢中で必死なんじゃないかと思います。

 

私はそんな彼も人間臭くて好きですけどね。

 

 

 

 

追記:いろんな興味深いご意見、ありがとうございます♡ 「これはジョングクだけの決断ではなく事務所や他のメンバーも関わっている」という指摘に対してはもちろん異論はありません。ただ、BTS程度の大物になれば、さすがに本人の意見がある程度は通るのではないかと私は推測しています。本件だってグクが「(炎上商法だとしても)これはどうしても嫌だ」と主張したならば、事務所も彼にこの企画を強制的に受け入れさせることはできなかったのではいないか、その意味で、これを(積極的あるいは消極的に)選んだのはジョングク自身だったと理解して差し支えないのではないか、というだけのことです。音楽業界のことは何も知らない素人の戯言と捉えていただければ幸いです。