お立ち寄りいただきありがとうございます♡

いいね、フォロー、コメント、メッセージも本当にありがとうございます。お返事は来月に入ってから書かせていただきたいと思っていますので、しばらくお待ちいただければうれしいです♡

 

***

 

今日は完全にTMIです(書くのをやめるつもりだったアメ限日記の内容も含まれています)

 

ちょうど10時間前に0時を迎えたとき、私は同僚数人と寮の1階のリビングにいました。昨年9月から就職活動をしてきた全米の医学生が来年度の就職先から一斉に内定通知を受ける時刻が1時間後に迫っていたからです。全米の医学生や、他国から米国への就職を目指す外国人医師らに混ざって、私が働く米軍基地の病院からも2人、昨年から本格的に就職活動をしてきた日本人医師がいました。彼らにとってはまさに運命の時で、0時からそわそわしながら、私を含む残りの日本人医師も一緒に通知を待っていました。

 

米軍基地の病院というのは、当然米国人の軍人を診る、米国の病院なわけですが、非常にリソースが限られており、検査も満足にできないことがあるため、近隣の日本病院に患者さんを搬送して診てもらわなければならない場合も多く、非常に脆弱な、どちらかと言えばクリニックのような病院です。毎年、数人の日本人医師がこのクリニックに1年間身を置いて、研修医のようなローテーションをしながら、米軍病院と基地近隣の日本病院との橋渡し役として働くわけです。

 

橋渡しと一言で言っても、米国と日本とでは医療者の価値観も疾患ごとのガイドラインも異なる側面が多いので、そのすり合わせをしていく作業です。こういうシナリオだと米国では検査Aだけれど、日本では別の検査Bを先にやる。だから米国人医師は検査Aのために搬送を主張しているけれど、日本病院は検査Bしかやらないと言っている。治療についても米国人医師は緊急と言っているが、日本はまだ待てると言っている。こんな場合に、我々日本人医師が間を取り持つわけです。

 

こうして戦後より何十年もの間、米軍基地内の病院にかかる患者さんの命を繋いできたという点では、まさに米国と日本の友好関係を象徴するような研修プログラムであり、これを経て米国の病院に就職する日本人が例年数人は必ず存在するという意味で、まさに「国境」に位置するこの病院は我々にとっても日本と米国を繋いでくれる橋なのです。

 

こんな風に話すと、カッコイイ話のように聞こえるかもしれませんが、現実にはお世辞にも清潔とは言えない寮に住まわせてもらいながら、日本の病院に早く重症患者を預けてしまいたい米国人医師にいいように利用され、でも良い推薦状を書いてもらうために、多少の不満は飲み込んで黙々と働き、日本の病院に米国スタイルの非常識さを指摘されてもひたすら頭を下げて謝り倒し、何とか患者さんを診てもらえるように頼むという、板挟み業務が多いのです。

 

訳もなく悲しい日
身体は重くて
自分以外のみんなが
せわしなくて熱心に見える日
足が動かなくて
とっくに遅れをとってるみたい
世界の全てが憎たらしくてさ

あちこちで音を立て僕を減速させようとする
心は傷ついて 言葉が出なくなって
どうして 自分は一生懸命走っているのに
どうして僕に…

 

家においで
ベッドに横になって
考えてごらん
自分の間違いだったのか
目が眩む夜
ふいに時計を見れば
もうすぐ12時

 

もちろん、見ようによっては、他では絶対に経験できない2つの文化の狭間に身を置いているわけで、コミュニケーション能力を磨くにはこれ以上ない素晴らしい環境である上に、オンコールなどと言っても日本の病院の当直に比べたら断然楽なので、不満を言う方がおかしいと思うのですが、それでも、私は寮に引っ越した初日に、埃が舞い上がるカーペットに掃除機をかけながら、夜中の2時まで家具の埃をふき取りながら、破れたカーテンの向こうの病院裏の駐車場を眺めながら、向かいに住む謹慎中の軍人の存在に怯えながら、カビが生えたシャワー室で水圧を調整できないシャワーに肌を赤くしながら、ここまでしてアメリカに行かなければならないのか?! と思いました。

 

何より私にとって衝撃的だったのは、数日前までその部屋に別の日本人医師が住んでいたという事実であり、何十年もの間、何の不平不満も訴えずに同じ部屋で夢を噛んで過ごしてきた日本人医師たちのことを想っては、尊敬するような、逆に「なぜ何も言わなかったんだろう」と呆れるような、複雑な心境になったのです。

 

そしてその問いは幾度となく心を支配し、たとえば私は冷凍庫の霜取りというものを半年前に人生で初めて行ったのですが、それまで悪性腫瘍のように大きく成長し、冷蔵庫まで浸潤してくる氷を定期的にナイフで削りながら、いつも悔しさと情けなさと悲しさが入り混じるような何とも言えない気持ちになっていました。

 

患者さんの搬送のために日本人医師を呼びつけながら、自分は紹介状さえ書かずに椅子で踏ん反り返っている米国人医師を見るにつけ、「日米関係を揺るがすセクハラ」と自ら表現しながらそれを有耶無耶にしようとする彼らを見るにつけ、加害者からの報復に怯える人間への表面的な慰めの言葉を聞くにつけ、搾取の2文字がぼんやりと頭に浮かびました。

 

少しずつリズムが狂っていく
簡単な表情も作れなくなる
見慣れた歌詞 何度も忘れてしまう
僕の気持ちと同じようなものは一つもない
そうさ 全て過ぎたことだよ
一人で言ってみても
本当は簡単なことじゃない
僕のせいなのかな
僕が間違ってるのかな
答えのない自分のやまびこばかり

 

研究留学の道を模索する中でさらに頭を下げ、当然ながらそう簡単には実らない生ぬるい就職活動を続けながら思うのは、こんなにも米国は遠い国だったのかということ。クリニックでローテーションをしていたこの1年、臨床能力は確実に落ち、キャリアとしては完全に足踏み状態なのに、この犠牲がどこにもつながらないかもしれないという少しばかりの恐怖。そしてまた頭をもたげるあの疑問。

 

ここまでしてアメリカに行かなければならないのか。

 

こんなことで諦めるぐらいのアメリカなのか。

 

こんな病院を介することなく、米国への憧れを奪われることなく、もっとクールにスマートに爽やかに渡米していく先生もたくさんいる。

 

私は何をしていたのか。。。

 

文字通り国境に立ち、皮肉にも初めて感じる日本とアメリカの間にある途轍もない距離。

 

乗り越えてしまえばどうってことないはずだし、諦めるつもりはないけれど、この先に何があるというのか。。。

 

何か変わるかな
そんなわけないさ
それでもこの一日が
終わっていくじゃないか

 

でもこんな思いを抱いてきたのは私だけではなくて、弱音を吐かない私の同僚たちも多かれ少なかれ感じていたはずで。だからこそ、1時を回り、2人とも第一希望の病院から内定通知を受けた瞬間というのは、信じられないほどの感激だったのです。

 

秒針と分針が重なる瞬間
世界はほんの少し息を止める
Zero o'clock
そして君は幸せな気持ちになる
たった今舞い降りたあの雪のように
息をつこう 初めてのことみたいに
そして君は幸せな気分になる
すべてが良い方向に向かっていく
何もかもが新しい0時

 

他人のことでこんなに喜んだことは正直なかったと思うのですが、その瞬間を録画していた我々。落ち着いてから動画を再生してみると、たった2時間前のことなのに、通知を待つ2人の第一希望から第5希望までの病院をみんなで確認して結果発表に備えている様子が遠い過去のように思えて、夢が叶う直前の世界が切ないほどに愛おしく感じられたのです。

 

その感情を誰よりも理解しあえた私たち。

 

一方では、昨年4月に一緒に働き始めたとき、「これが敗戦国に生まれたってことなんだよなぁ」としみじみ言っていた彼らに対し、そんなことはどこ吹く風だった私。徐々に立場の弱さに気づき我慢できずに上級医にも彼らにも言いたい放題になっていった私を、「らじこは戦うからなぁ」と呆れたように言いながらも、愛想をつかさずに受け入れ、時には守ってくれた彼ら。

 

早朝にゴキブリが出たと大騒ぎすれば、夜通し働いた後でも、搬送前でも駆けつけてくれて、埃だらけのソファーの下までチェックしてくれて。挙句の果てに、メガネをかけていなかったせいで、黒い糸くずの塊をゴキブリと見間違えただけかも、などとふざけたことを言っても「天然だからしょうがない」と笑ってくれて。いつかの津波アラームが鳴ったときも、この前の地震の時も、無視して寝続けた私を見捨てずにたたき起こそうとしてくれた仲間たち。

 

そんな彼らの内定通知の瞬間を収めた動画の最後の方に思いがけず登場する私の発言。

 

「本気で幸せになれる気がしてきたわ」

 

他人の夢が叶った瞬間というのは、往々にして置いて行かれたような、そんな少しだけ焦ったり、不安になったりすることが多いかもしれないけれど、9時間前に仲間の夢が叶う瞬間に立ち会う幸運に巡り合った私は、自分も彼らと同じように確かに幸せを手に入れられるはずだと、人生で初めて自然と信じることができたのです。

 

それはきっと、たった1年の付き合いでも、夢を共有して苦楽を共にしてきたということには特別な温もりがあるからで、あの感動を味わわせてもらえたというだけで、彼らに出会えてよかったと心の底から思います。

 

両手を合わせて祈るよ
明日はもう少し笑えますように

僕のために
少しはマシになりますように

僕のために
この歌が終われば

新しい歌が始まる
もう少しだけ
幸せでありますように

今日も僕自身を労わって
きっと幸せになれるから
きっと幸せになれる
すべて良い方向に向かっていくはず
何もかもがあたらしい
Zero o'clock

 

 

最後までお付き合いくださってありがとうございました♡