もともとはBTSのメンバーの名前を調べただけのつもりが・・・

下記サイトのとある投稿Taekook Timeline — Ask (tumblr.com)を読んで、BTSはもしかして何らかのメッセージを伝えようとしているのではないかと思い、日本語で同じような内容の考察を探しましたが、見つけられなかったのでここで紹介してみようと思いました。ブログを書くことになるとは思いもしませんでしたが、この投稿が誰かの目に留まればうれしいです。

 

それではさっそくですが・・・

 

2019MAMAのオープニングのVCRで2人だけ青い光で染められていたり他のメンバーは赤い光)、黒い影他のメンバーは白い影)で描かれている点から考えていきたいと思います。

 

 https://www.youtube.com/watch?v=lFMXk0L4kG8

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前提として、Map of the Soulのコンセプトとなっているユングのindividuationの理解が重要なので、軽くその点を解説したいと思いますが、完全に素人なので、主に海外インテリarmyの解説の受け売りであることをご了承ください。間違いなどはご指摘いただければ幸いです。

 

まず、ユングは、人間がよりよく生きていくにはindividuationというプロセスが必要だと言っています。外界(outer world)に見せるペルソナ(persona)、その背後にあるエゴ(ego)と、潜在意識を構成する影(shadow)、animus-animaを統合することで本当の意味で自己が完成します。BTSのMVやライブの演出はたびたび、「ペルソナ」=表向きの理想の自分を表す色として「」を使用し、その背後に隠されている真の自分を構成する「影」=混とんの中に生きるありのままの現実の自分を示す色として「」が使用されてきた経緯があります。(二つを混ぜると紫になるというのも興味深いですね)

 

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N.O.(2013)のMVでは、映画マトリックス(1999)へのオマージュを思わせるピルが登場してきており、赤いピルを選んで、混とんとした真実と向き合うか、青いピルを選んで、無知の平和に身をまかせる(真実に向き合わずに仮面の奥で生きる)かの選択を迫られたBTSが赤いピルを選択し、既存勢力との闘いに挑もうとするところから話が始まっています。

 

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その後もたびたび、テテのソロ曲Singularity(2018)やユンギのソロ曲Shadow(2020)などでこの赤と青のコンセプトが触れられています。

 

まず後者からみていくと、ユンギのペルソナが青い光に照らされ、ステージの下から無数のカメラを向けられています。

 

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しかしその後彼はステージから降り、隠された「影」=現実の自分(赤)と向き合います。「影」とは簡単に言うと、否定あるいは無視してきた自分の一部であり、LGBTであるというアイデンティティーもこの中に入ってくるようです。我々がよりよく生きていくには、自分の影を押し殺すのではなく、むしろ意識下に置き、それをひっくるめて己を知りつくす必要があるとユングは考え、その工程をindividuationと呼びました。

 

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そしてShadowの2年前にリリースされたSingularityでもまた、青と赤が、今度は仮面と共に登場しています。

 

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青い背景の中で歌詞は「君のために自分の声を押し殺した」、やはりペルソナを暗示するものになっていますが、

 

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このカットでテテは仮面をかぶっており、左側は青く染まっているものの、右側が赤く照らされており、LOVED(愛されている)という文字が並んでいます。これが「影」にせざるをえない、隠された「愛」の存在を意味するのかは分かりませんが、ナムジュンが同曲の詞を書く前に三島由紀夫の仮面の告白(人と違う性的傾向に悩み、生い立ちからの自分を客観的に生体解剖していく「私」の告白の物語;wiki)を読んでいたというのは偶然ではなさそうです。

 

confessionsofamask - Twitter Search

 

さらにさかのぼると、Blood Sweat and Tears(2016)でナムジュンのナレーションが入るところでも画面は赤く染まります。

BS&Tを含むWingsシリーズはヘルマンヘッセのDemianをモチーフにしていますが、その主人公Sinclairもやはり光と暗闇の二つの世界のはざまで揺れ動きます。善良なキリスト教が支配する光の世界の向こう側に、裏切りと罪に泥酔させられる暗闇の世界があることを知った主人公はDemianにそそのかされる形でindividuationの道をたどります。

MVではBTSメンバーがそれぞれ誘惑に惑わされる様子が、禁断の果実であるリンゴや、指に滴る黒いインク、目隠し、カーテンという小道具を用いて表現されています。

ナムジュンのナレーションはDemianの一説ですが、

 

“He too was a tempter. The evil world with which I no longer wanted to have anything to do”彼もまた誘惑してくる存在であり、僕がもはやかかわりたくないと思っている悪の世界だった

 

という言葉とともに少年の影は風船を手放します。純粋無垢な少年が誘惑に負けた自分を受け入れイノセンスを失い青年へと成長していく瞬間を「赤」で表現しています。

 

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MAMA2016 でのBS&Tの演出も赤い世界と青い世界から構成されており、Sinclairを苦しめた人間の2つの世界(自己を構成するするペルソナと影)が強調されています。

 

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この文脈で考えると、MAMA2019で、他のメンバーが赤い光の中にいる一方で、グクとテテの2人だけ青い光の中にいるのは、他のメンバーがすでにペルソナ(青)を破壊して、ありのままの自分を受け入れ真実の自分(赤)を生きる準備が整っているのに対し、2人だけまだ仮面の奥にいることを示唆していると解釈できます。

 

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そのうえで次の演出ですが・・・

MOTS ON:E(2020)のVCRで2人だけ黒いペンキを顔に塗りつけています

 

 https://www.youtube.com/watch?v=9XgiTqfQiWQ

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黒というのは、「罪」を象徴する色でもあり、同性愛を禁じる韓国での自分たちの立ち位置を理解した上での演出ではないかと解説されています。グクは口を、テテは目を黒く塗っており、「見ざる聞かざる言わざる」の表現を連想させますが、世間が彼らの関係に気づかないふりをしていることを嘲笑するかのように、2人は笑みを浮かべます。世間が目を逸らし、口を閉ざすような自分たちの「禁じられた」アイデンティティーを、MAMA2019から1年の時を経て、彼ら自身が受け入れつつあることを示していると解釈できます。

 

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同じような文脈で理解されているのがON(2020)のMVですが、これはノアの箱舟など聖書を連想させるモチーフがたくさんある中で、2人だけ棘を身にまとっています(テテは首元、グクは手首)。

 

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さらにそれぞれが最初に登場するシーンで、テテは両腕を広げ、キリストが十字架にかけられたときのような姿勢になっており、グクは手首を縛られた状態で何かから逃げています。考え合わせると、2人だけが何か罪深さを背負っているように見えます。

ONの歌詞には”Bring the pain”というフレーズがありますが、2013年のN.O.から描かれてきたindividuationの流れからは、「真の自分」と向きあう痛みと対峙する決心がついたという意味だと考えられます。実際にMVの最後には崖を駆け上がりながら笑顔を見せるグクの姿がありますね。

 

そこで、さいごにON:E My Time(2020)のVCRですが、グクのそばにある時計が2人の誕生日を示しています(その近くにある電話の背後の時計がユンギの誕生日?)

 

 https://www.youtube.com/watch?v=4RANd9K_SuQ

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これに関しては、テテ(やユンギ)がグクにとって特に大切な存在であるという解釈以外、特にこれといった考察はありません。ユンギが2人だけに特別なメッセージを送ったことは有名な話だと思いますが、そのこととの明らかな関連を示唆する演出はありません。

 

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事実はどうであれ、グクはナイトスタンドの一番手前に置かれた時計を手にします。それはちょうど0時を指しており、My Timeという曲のタイトル通り彼が「自分の時間」をついに手に入れたことを暗示しています。ここでいう「自分の時間」とは今までの束縛から解き放たれ、リセットされた真の自分として生きる時間のことを意味していると考えられます。サビの歌詞が"I can't call ya, can't hold ya, can't touch ya"から始まり、最後に"I will call ya, will hold ya, will touch ya"と変化していくことと重なります。

 

ここまでの解釈がDynamite以降の楽曲とどうつながっていくかは難しいところですが、DynamiteやButterは背景色などがLGBTQの旗の色と重なった色づかいになっていることが指摘されています。以前からそういう楽曲はありましたが、特にそういった傾向が強いDNAのMVの途中、1:23で2人の運命を示唆しているのもやはり興味深いです(123に関しては随所で解説されているので省略します)。

Here Are 30+ Times When BTS Proved Themselves To Be LGBTQIA+ Allies - Koreaboo

 

さらに言えば、Vライブやインタビューなどで、自分を表現する言葉を聞かれたグクが"I'M STILL ME"と映画Love, Simonのセリフを引用していたり、好きなアーティストを聞かれて何度もTroye Sivanの名前をあげて彼の歌をカバーしていたり、好きな映画としてテテがCall Me by Your Nameを紹介していたり、あるいは自作曲4 O'clockが映画Moonlightをモチーフにしていたり、こういう例はきりがなく、彼らがLGBTQを支持しているのは明らかと言って良いでしょう。

 

私はBTSを知るまでシッピングカルチャーに全くなじみがなかったのですが、ARMYが切り取るグクとテテのストーリーに触れると、これが「愛」でなければいったい何が愛なんだろうという気持ちにさせられますし、彼らを見ると人生捨てたものじゃないなと思います。(誤解がないように、ここで言う「愛」というのは、兄弟愛や友愛を含む様々な感情と明記しておきます。)

 

彼らは自らのセクシャリティについて言及していませんが、「BTSのメッセージ」の通り、LGBTひいては何らかの差別を受けているすべての人々の権利が認められ、堂々とありのままの自分を生きることができる世界の実現を祈らずにはいられません。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

参考サイト:

Taekook Timeline — Ask (tumblr.com)