人間失格 グッド・バイ /太宰治 | ひびのおと

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「恥の多い生涯を送って来ました.自分には,人間の生活というものが,見当つかないのです」――世の中の営みの不可解さに絶えず戸惑いと恐怖を抱き,生きる能力を喪失した主人公の告白する生涯.太宰が最後の力をふりしぼった長篇『人間失格』に,絶筆『グッド・バイ』,晩年の評論『如是我聞』を併せ収める. (解説 三好行雄)

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「おれも、こんなお化けの絵がかきたいよ」
 あまりに人間を恐怖している人たちは、かえって、もっともっと、おそろしい妖怪ようかいを確実にこの眼で見たいと願望するに到る心理、神経質な、ものにおびえ易い人ほど、暴風雨の更に強からん事を祈る心理、ああ、この一群の画家たちは、人間という化け物にいためつけられ、おびやかされた揚句の果、ついに幻影を信じ、白昼の自然の中に、ありありと妖怪を見たのだ、しかも彼等は、それを道化などでごまかさず、見えたままの表現に努力したのだ、竹一の言うように、敢然と「お化けの絵」をかいてしまったのだ、ここに将来の自分の、仲間がいる、と自分は、涙が出たほどに興奮し、
「僕も画くよ。お化けの絵を画くよ。地獄の馬を、画くよ」
 と、なぜだか、ひどく声をひそめて、竹一に言ったのでした。