痛み メモ | ひびのおと

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侵害受容器
心理的な要因による痛みを除いて、組織への損傷が起ったか,その可能性のある時に障害を知らせる痛みはどのようにして神経系に伝えられるのだろうか.侵害性の障害を受け止める受容器は侵害受容器(nociceptor)と呼ばれる.侵害受容器は 一次感覚ニューロンの自由神経終末の細胞膜に組み込まれている.侵害受容器の分類は研究者によ って異なるが,Kandel ら 2)によると(高閾値)機械侵害受容器,ポリモーダル侵害受容器,温度侵害受容器,サイレント侵害受容器の 4 種類に分類されている. 
 
機械侵害受容器 mechanical nociceptor: 強い圧力などの機械刺激に反応する. 
 
ポリモーダル侵害受容器 polymodal nociceptor:多くの刺激(機械刺激,温度刺激, 化学物質刺激)に反応する. 
 
温度侵害受容器 thermal nociceptor:45℃ 以上あるいは 5℃以下の温度に反応する.
 
サイレント侵害受容器 silent nociceptor: 通常では反応しないが,炎症や様々な化学物質がある場合に感受性が変化して反応する. 
 
 
これらの受容器はイオンチャネルであり,陽イオンを神経線維内に取り込み,一次感覚ニューロンの自由神経終末を脱分極させ,活動電位を発生させることで,刺激を中枢に向かって伝える.イオンチャネルと言っても実際は非常に複雑である. 細胞膜を貫通して陽イオンを透過させる陽イオンチャネルと陰イオンを透過させる陰イオンチャネ ルがある.イオンチャネルは,普段は閉じており、刺激があると開くというのがほとんどである.神経細胞に限局すれば,チャネルが開いて 陽イオン(Na+, Ca2+)が 細 胞 内 に 入 る と 神 経 は 興 奮しやすくなり,陽イオン(K+)が細胞外に出る か陰イオン(Cl-)が細胞内に入れば神経は興奮しにくくなる.また,チャネルがどのような刺激によって開くかによって,電位依存性チャネル 7), リガンド依存性チャネル,機械刺激依存性チャネ ル等に分類される(Fig. 1).
 
電位依存性チャネルは,膜電位が変化すると,チャネルを構成するタンパク質の構造変化が生 じることでチャネルが開く 6).リガンド依存性チ ャネルは,特定の受容体に特異的に結合するリガンドと総称される物質が,チャネルを構成するタ ンパク質に結合することでチャネルが開く.イオンチャネルの一部に,受容体が存在することから イオンチャネル共役型受容体と,受容体をメインにした命名で呼ばれることもある.チャネルを開くリガンドはアゴニストと呼ばれ,開かないようにするリガンドはアンタゴニストと呼ばれる.ア ンタゴニストは,一般にブロッカーや拮抗薬,阻害薬と言われる.神経細胞では様々な神経伝達物質(グルタミン酸,アセチルコリン,アドレナリ ン,ノルアドレナリン,ドーパミン,セロトニン,サブスタンスP,CGRP,グリシン,GABA 等) がリガンド(アゴニスト)となる.もう一つの機 械刺激依存性チャネルは,物理的な刺激によって作用するチャネルであり,チャネルを構成するタ ンパク質が細胞外基質や細胞骨格と結びついて おり,細胞内外が動く力により刺激されることが 明らかになっている 8). 
イオンチャネルは細胞膜に組み込まれている が,一般に,数個からなるサブユニットで構成さ れている.同じサブユニットでもさらに多様性があることで,サブユニットの組み合わせにより多 数の性質の異なったチャネルが存在することになる.
 
3.痛みの物質 3, 9) 
機械侵害受容器,ポリモーダル侵害受容器,温 度侵害受容器,サイレント侵害受容器などに侵害 刺激が加わることで受容器が活性化され,感覚神経終末に活動電位を発生させることで痛みの信号がインパルスとして中枢に向かって伝えられ る.この刺激が温度や強い圧力,あるいは化学物質であったりする. 
組織が損傷すると様々な物質が遊離してこれ が痛み刺激となる(発痛物質).また,直接,発 痛効果はないが,痛み刺激に対する感受性を高める発痛増強物質もある.これら痛みの物質にはブラジキニン,ヒスタミン,セロトニン,プロスタグランジン(PG), サ ブ ス タ ン ス P,ロイコトリ エン,ATP(アデノシン三リン酸)等がある.血管が損傷されると血管内皮からポリペプチドで あるブラジキニンが作り出されるが,これには発痛作用以外に,血管拡張作用,血管透過性亢進作用があるため炎症を引き起こす.ブラジキニンは 肥満細胞からヒスタミンを放出させる.ヒスタミンは少量では痒みを引き起こすが,量が多くなると痛みを引き起こす.また,炎症は血小板からセ ロトニンを放出させ,これが発痛物質として作用するため痛みがひどくなる.また,損傷された細 胞膜から作り出された PG が,ブラジキニンの発痛効果を強める働きをする.PG と同様に,サブスタンス P,ロイコトリエン,ATP などは侵害受 容器の感受性を高めることで,痛み反応を強くする作用がある.このように,組織損傷によって生じた炎症で様々な化学物質が合成・放出されることで痛みが持続する.また,炎症で生じた化学物質が痛みの受容の閾値を下げるため,普通では痛みにならない刺激でも痛みを感じることになる (異痛症 allodynia・痛覚過敏 hyperalgesia). 
組織損傷で炎症が起こり,痛みが持続する.炎症では血管拡張が起こり,血管の透過性が増す. これは損傷組織の修復にとって必要な材料を送り込むのに都合がよい.また,痛みの持続は損傷個所が修復中であり,安静にすることの必要性を 伝えるシグナルと考えられる.損傷が大きければ 炎症も大きく,痛みの程度も強く長く持続することになる.