『暗殺者の反撃』
マーク・グリーニー (著) ハヤカワ文庫
<グレイマン>の映画が2022年7月には日本で放映されました。
わたしはまだ観ていないけれど、小説とはかなり違っているところもあるみたいです。
小説も映画もそれぞれの良さがあるので両方とも楽しめると思います。
【内容(「BOOK」データベースより)】
“グレイマン(人目につかない男)”と呼ばれる暗殺者ジェントリーは、かつてCIA特殊活動部で極秘任務を遂行していたが、突然解雇され、命を狙われ始めた。それ以来、彼は刺客の群れと死闘を繰り広げてきたが、ついに今、反撃に転じる。CIAが抹殺を図る理由を突き止めるべく、故国アメリカに戻ってきたのだ。が、それを知ったCIA国家秘密本部本部長カーマイケルは、辣腕の女性局員を配下に入れて、グレイマン狩りを開始する!
<グレイマン(人目につかない男)>の異名がある裏の世界では伝説的な暗殺者コートランド・ジェントリー。
CIAの秘密部門で働き、世界各地で隠密作戦。非合法工作もした。
9.11を契機に特殊部隊で働き、優秀な暗殺者になっていった。
ところがある日突然の解雇。
“目撃しだい射殺” 指令が下りた。
「いったい、おれが何をしたというんだ。」
彼は、それから様々な国籍の刺客に追われ続け、5年の歳月が流れた。
そして、とうとう彼はその理由を知るため、危険を顧みずアメリカの地に降り立った。
CIA本部で会議が始まった。
ジェントリーが密航によりアメリカに入国したが、その後の足取りは途絶えているとの情報だ。
ジェントリーの暗号名は<ヴァイオレイター(違反者)>である。
<ヴァイオレイター対策グループ>で何年にもわたり仕事をしているのが7人。
CIA長官は政治任命のトップではあるが飾り物に過ぎず、実質指揮を執っているのは国家秘密本部本部長 デニー・カーマイケル である。
密接に行動を共にしているのが副本部長 ジョーダン・メイズ とカーマイケルの身の安全を図るため常に側にいる ドレンジ という警護の指揮官。
副本部長メイズがこのチームに計画立案部の スーザン・ブルーア の参加を推した。
ブルーアは、いわば部外者であったが、実に優秀な人材で意志強固な敵の攻撃を防ぐやり方に通暁しているとのことだった。
39歳でCIAの保全手順の弱点を見つけて、そこを強化するのが仕事で、扇動工作員になる可能性のある人間の名前もすべて知っているし、今までの脅威の詳細、既知のすべての作戦、あらゆることに精通していた。
本人はスパイ(諜報員)ではないが、スパイたちを危険から護るのが自分の使命だと考えている人間だった。
そして、彼女は参加が許されることになり、<ヴァイオレイター対策グループ>戦術作戦センターの指揮官 となった。
そんなころ、ジェントリーは身一つで密航してきたので、目的のためには資金と武器が必要になり、ある麻薬組織の密売所に乗り込んでお金と武器を調達した。
その時、二人を殺し4人に重傷を負わせた。そのシーンは、この作家ならではのリアルな描写でしばし興奮し、楽しませてもらえる。
お金と武器を調達するのに、なぜ楽な方法ではなく武装したシャブ中の白人上主義者どもがひしめいている家を襲ったのか。と後にスーザン・ブルーアが訊く場面がある。
メイズが言う「なぜなら、ヴァイオレイターは正義の味方のつもりだからだ。狙うのは悪党だけだ」と…
ここが、グレイマンの信念なのよね。好きだなーこういうとこ。
この事件は異質であるため、CIAにも情報が届いた。
白人一人で6人をやっつけて、去っていったと…
それも、大型銃は持つのに目立ち過ぎなので小型の銃だけを持ち去った…
その後、警察は、その現場の立ち入りを禁止され CIAが取り仕切っていた。
それだけでも異常なことで、<ワシントン・ポスト>の記者アンディ・ショール は取材のため出向いたが近くに寄れなかった。
現場を離れていくとそこに、一台の車に男と女が乗っていた。
男は両脇がボディーガーに守られている。
アンディ・ショールは、これは何かきな臭いと感じ、写真を撮り<ワシントン・ポスト>調査報道記者 キャサリン・キング に送った。
キャサリンは、男はCIA国家秘密本部副本部長ジョーダン・メイズであることが分かったが、女の方は知らない人間だったので調べることにした。後に スーザン・ブルーア だと知る。
事件現場のナイトスタンドには指紋が残されていた。
ジェントリーの指紋は警察には登録されていなくてCIAの一部署でしか照合はできない。
その指紋は、親指を故意にべったりとつけたような、数字の<6>の形になっていた。
本部長カーマイケルには指紋照合せずとも誰のものか分かった。
これはジェントリーからのメッセージで、「おれは帰ってきたし、怒っている。おれがここにいることを、エージェンシーに知っておいてもらう。」ということだ。
ジェントリーはかつて『特務愚連隊(シエラ・スクワッド)』に所属していて、<シエラ6>がコールサインだったのだ。
上巻3分の1くらいのところで、メイズが本部長カーマイケルに言う言葉がきにかかる。
その言葉というのは、「ジェントリーの一件が漏れたら、長官になれないだけではなく、何もかも失いますよ」と…
これは伏線だなー
ジェントリーを殺すことになった理由は、この本部長と副本部長しか知らないということなのか。
“目撃次第射殺”指令は、理由も知らずに周りは命令のままに行動しているということ。
そしてもう一つの伏線。
かつてCIAの中から選ばれた優秀な若者たちが<独立資産開発プログラム>という新計画の中で個人訓練を施され、世界各地に派遣され単独作戦を行った。ジェントリーもその中の一人。
その後、プログラムは解散され、ジェントリーは別の部隊に組み入れられた。
そして、そのプログラムはジェントリーとって過去のものとなっていたはずだった。
ところが先月、自分がプログラム全体で 生きている最後の一人 になったことを知ったのだ。
あとの17人の若者はそれまでに殺され、17人の最後の生き残りを殺したのはジェントリーだ。
CIAは何らかの理由で、このプログラムにいたものを消してきた。
ジェントリー以外は、すべて…
これが多いなる伏線だなー
ということで、ここまでがほんの序盤戦。
ここから息つく暇もないほどのスピーディーな展開となっていく。
この後、かつての上官やサウジアラビア情報部のスパイなどが登場し、複雑に人間が絡み状況が錯綜する。
それにしても、人目につかないように行動しているのに、どうしてかトラブルに巻き込まれるジェントリー。
それは彼の善良な部分が自分の身の危険を顧みずに、自分とは関係ない人間を助けるからだ。シリーズ1作目のプロローグもそんな出だしから始まったのを記憶している。
暗殺者として多くの人間を殺してきたけれど、それは彼の、誰を殺し、誰を救うのかが彼の正義と信義の部分なので、読者はどうしても味方したくなる。
そして結局、ジェントリーはカーマイケルの策略により、連続殺人犯とされて警察にも追われるようになる。
窮地に陥るジェントリーは、どのようにして身の潔白を証明し<目撃次第射殺>指令の理由を知ることができるのか。
ジェットコースターに乗っているかのような、全編ハイスピードの展開で目まぐるしく進む面白さは大興奮のストーリーになる。
<目撃次第射殺>指令の理由は、二転三転し、そういうことだったのかと思うと、またまたそこには裏があり、真相はまた別のところにあり、なるほどそういうことなのね。と思いきや、騙していた人間が本当は騙されていた側だったり何度も二転三転して翻弄される。
最後、難攻不落の要塞にたった一人で乗り込み、目的を遂げた後、脱出不可能を奇想天外の脱出で可能にする。
これが、すごいアクションの連続で読み応えある。
この小説のもう一つの醍醐味は、複数国の諜報員の陰謀などスケールの大きさにある。
面白かったなー。
ストーリーが矛盾なく自然でよく練られていて、前作とのつながりも上手に使っているのでとても力量ある作家だと思う。
ジェントリーがアメリカを去り5年の歳月が本作までの物語になっているので、1作目から読んでいる読者はジェントリーに共感し、手を差し伸べたくなる。
<目撃次第射殺>指令 の黒幕は死に、指令は解除された。
さて、ジェントリーのこれからの立場がどうなるのか。
これは、ここでは明かさずに次作『暗殺者の飛翔』のブログで書くことにする。
新しいジェントリーの活躍が見られるのが楽しみだ。