ストーカーは静かに走る | 梯子ダルマ オフィシャろうブログ

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ラジオネーム:梯子ダルマとして深夜ラジオにメールを送っていた、現在放送作家として働く26歳の男が書くブログです。

思ったことを書いて、賛同・誹謗中傷などの反応がきて、コメントがきっかけで会話をしたり、そんな交流が嬉しいです。


バイト帰りにコンビニへ入ろうとしたら、道を挟んで向かい側、何かを落とす女性。


カバンから何かが落ちた。彼女は気付かない。見たところカバンの口が大きく開いている。


しばらくして次はペットボトルを落とした。大きな音がして、彼女はそれに気付く。拾い、カバンを閉めた。


でも20m前でもう1つ何かを落としていたことには気付かない。彼女はそのまま歩いて行った。




「はぁ、可哀想に」

絵に描いたような他人事に若干後ろ髪を引かれつつ、コンビニに入る。


物を失くすことは多い。ありったけカバンをひっくり返して、同じポケットを時間差で何度も開けたり閉めたり。「落としたのだ」と薄々気付いている。


そんな時、見てもいない「落ちた瞬間」と「その後」の光景を妄想する。電車で立った瞬間、尻ポケットから落ちたのかしら。大きめの段差を自転車で乗り越えた時に、振動でカバンから落ちたのかしら。踏まれたのか。拾われたのか。蹴られたのか。そのままなのか。今、僕のiPod nanoはどこで何をしているんだろう。


財布だったらどうする?
ただのゴミかもしれないけど
携帯だったらどうする?
見なかったことにしちゃおうか
親の形見だったらどうする?
早く飯を買って帰ろう



一度雑誌の前を往復して、すぐにコンビニを飛び出す。


車の合間を縫って道路を横断、PASMOを孕んだポムポムプリンのパスケースが転がっている。再発行は出来るが、急になくなったら大変だな。もしかしたら大金がチャージされてるかもしれないし。ほぼ財布みたいなもんだし。


走る、走る走る。
なかなか背中が見えてこない。

シャツは出て、髪はボサボサ。
人に会える格好じゃない。
が、とにかく走る。

ダサい姿で、ドタドタ走る。
300mほど走ったか。


見えた。追いつきそう。
ドタドタと、バイト用の少しサイズの合ってない靴で、音を鳴らしながら走る。スマートさの欠片もない。








女性が走り出した。






マジかよ。

背後から迫る「ドタドタ」に警戒したのだろうか。突然走り出した。少し走って、歩いて、また走り出した。リアルな加速。

待て待て待て待て。勘弁してくれ。俺はストーカーか、つって。昼間っから大胆ストーキングか、つって。善行はなかなか報われない。


ほぼほぼ追いつく。が、向こうもまだ走ってる。距離があるので仕方なしに、大きな声で「すいませーん」。




女性が怪訝そうな顔で振り返る。



「これ、シャス、あの、ハッ、向こうで、スッ、はい、これ、シャス」


日本語も奥が深い。これで通じるのだから。勉強なんて要らないじゃない。はい、リピートアフターミー、シャス。


何を言っていいか分からず、何よりも本当に鳥のササミかってくらい全身バサバサのみっともない格好が恥ずかしくて、すぐに引き返す。「ありがとうございます」を背中で浴びた。






中高生の頃、自分のクラスで何度もイジメを経験しました。それは被害者でも加害者でもなく、部外者として。まぁ、もう加害者みたいなもんですけど。楽しみもせず、悲しみもせず、ただその場にいました。


被害者側の人たちからは「ふざけるな」と言われるかもしれませんが、自分にとってはこの「傍観者にさせられた」経験が、大きな傷となって残っています。



アメコミヒーロー映画にハマりました。ただ見てるだけ、誰も助けようとしなかった自分のダサい部分を、彼らは克服していきます。


中でもすぐに涙してしまう要素がある。「自己犠牲」です。「俺のことはいいから先に行け!」ですね。報酬を求めず他人を救う、最高純度の善。この眩しさに憧れ続けます。





「名乗る程の者ではございません」


100mほど離れた場所から、小さくつぶやくフリ。名前、聞かれてないけど。振り返ったら、もう誰も居なかった。


行きの5倍の時間をかけてトボトボと道を引き返し、カップ麺を買って帰る。




身体でも鍛えようかな。


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