田崎先輩の直感?で、『難問題の系統と解き方 化学』という問題集を買ってみた。本はその後廃品回収に出してしまったので記憶だけなのだが、黄色と暗い緑色のカバーがついたデザインだったと思う。
田崎先輩の学習法は、「とにかくパターン暗記!」というものだった。こちらはとにかく無知なので、訳の分からないままテキストの演習問題に赤ペンで回答を書き込み、ひたすら暗記した。アパートだと集中できないので、日曜日も事務所へ出て、誰もいない部屋でコピー用紙の裏紙に書き殴り、それを平日の移動中の電車内でも見返して三週間ほど過ごした。
結局のところ、「いきなり文系の若手には難しすぎるだろう」というので研修では取り上げられず、最後に「習熟度確認テスト」というので高校の化学の問題を出されただけだった。たった三週間だが自分と田崎先輩だけ勉強していたので、20人ほどいた社員の中でダントツのトップ2を獲得した。個人的には人生で初めて20人中2位なんて記録を出せたのが何とも嬉しくて、思わず涙が出た。
隣に座っていた先輩が顔を覗き込んで、
「なんだ、お前こんなことで泣いてんのか?ボーナスが上がるわけでもねえのによ…よほど嬉しかったんだな。自信持てよ!」
と、肩に手をおいて声をかけてくれた。
ただ、無能すぎて工場から営業へ出された落ちこぼれ社員が同世代の大卒総合職より知識がある…というのは、社内でも話題になったらしい。まず営業所長から、「キミはワシの指導力の高さを証明してくれた」と手のひら返しで言われ、「お前」呼ばわりから「キミ」呼びに昇格した。後にお客さんを連れて工場へ出向いた際、元いた保全課の先輩方に、「おめえ、やりゃあできるが!営業は大変じゃろうが、これからも頑張りいね」と声をかけていただけたのを30年近く経った今でも鮮明に覚えている。