労働者にとって最大の楽しみは昼食。特にデスクワーク以外の、身体を動かす人間にとって「昼飯」は最大の関心事である。
今はスマホを見ながら食べる人が増えたとはいえ、気の合う仲間とワイワイやる風景はあまり変わらない。
しかし、昔から、「食べ物の怨みは恐ろしい」という通り、時にはもめ事の原因にもなったりする。
自分と同時期に働き始めた社員で唯一残ったK君(25歳)。自称「コミュ障」で、仕事は周りの同世代より若干遅いものの、真面目に黙々と働く。その彼が真逆の陽気キャラに変貌するのが食事の時。仕出し弁当を食べ始めると大声で、
「うまい!うンまい!ここの弁当、マジ最高っす!オレ、幸福度マックスっす!」
と、これを毎日欠かさず歓喜する。
工場長始め、周りの多くの社員も彼の幸せそうな姿を見ては癒されている。でも、中には少ないながら嫌がる人もいる。
その筆頭が契約社員で最古参のN氏(47歳)。
「のろまな新入りが毎日弁当でガキみたいにはしゃいでいる」のが我慢ならなかったらしい。昨日の昼、とうとうブチ切れて、
「おい、K!おめえ、毎日毎日うっせえんだよ!」
と、本人の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。K君の向かいに座っていた工場長が立ち上がって、
「N!おめえこそ何してんだ、ゴルァ‼」
と、N氏の襟首を掴んで会議室へ連行していった。そして、N氏は昨日付で懲戒解雇処分にしたと発表された。
幸い、K君はいつも通り出勤してきたのだが、タイムカードを打刻してすぐ総務部長に、
「自分、ウザイっすか?Nさん、自分と同じ中学の先輩で、家も近いんです…」
と、心配そうに聞いてきたそうだ。総務部長と、K君の姿を見て駆け付けた工場長が、
「K、そんなことねえ。アイツ(N)のことは気にすんな。なんなら社長に頼んでアパート借りてもらおうか?」
と、必死でフォローしていた。何しろ無遅刻無欠勤で素直に働く、貴重な日本人の若者。零細企業にとっては「金の卵」である。
K君、明日も出勤してきてくれ!