李白 横江詞六首 其之五より | 題は未定

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久しぶりに図書館で李白の詩集を読んだ。

 

横江詞六首 其之五

「横江館前 津吏向へ

余に向つて 東に指さす

海雲の生ずるを

郎 今渡らんと欲するは

何事にか縁る

此の如き風波 行く可からず」

 

今から30年余り前、田舎の「底辺校」に通っていたとき、

地元の進学校を定年退職した先生が古文と漢文の非常勤講師として教えに来ていた。その時、先生が朗読したあと、

「ワシはこれを旧制中学の時に知って、その時は何とはなしに時代の重苦しい空気を感じたんよ。ほんで、高等師範の時分に学徒動員されてから、朝鮮へ送られて、戦争終わったと思うたら露助に連行されて中央アジアで強制労働させられて、やっと復員したらアカ扱いされて…。ほんに人生狂ったで。この李白の詞を読むと若い頃を思い出すんよ」

と涙声で話していたのを今でも覚えている。とはいえ、勉強のできない同級生はほとんど全員寝ていて、何とも寂しい光景であった。

 

先生は数年後、癌で亡くなられた。

 

この漢詩は「じゃりン子チエ」で取り上げられて、今でもときおりブログのネタにされている。ある大学の教授は、「いかにも反骨の人であった花井先生の心境を表している」と評し、またある人は「原作者のはるき悦巳もアニメ監督の高畑勲もよく知らなかったのでは?」と論じていた。

 

無学の自分にはその真偽は判らないが、50年近く生き永らえた今、一つの詞に、国家に翻弄された自分の人生を重ね合わせて生徒の前で嗚咽したあの老先生を決してpedantic(学者ぶった、衒学的)だとこき下ろす気にはなれない。