パナソニック持ち帰り残業自殺で和解が成立 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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パナソニックのグループ企業で、従業員が自殺した。自殺したのは男性でまだ43歳の働き盛りだった。自殺の原因はうつ病発症であるが、問題は、うつ病の要因は何かである。さっそく、記事を引用しておく。

 

電機大手パナソニックで働いていた富山県の男性(当時43)が2019年に自殺した。同社は、過大な仕事量や「持ち帰り残業」を含む長時間労働を正さずにいた結果、男性がうつ病を発症して死に至ったとして遺族に謝罪し、解決金を支払うことなどで6日、和解が成立した。

 

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労働基準監督署は自宅に持ち帰った仕事を会社の指示と認めなかったが、同社は独自調査で会社の責任を認めた。企業が裁判を経ず、持ち帰り残業を労働時間と認めるのは異例という。

遺族や代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、亡くなった男性は死亡当時、パナソニックの半導体事業を担うインダストリアルソリューションズ社の富山工場(富山県砺波市)で技術部の課長代理を務めていた。

男性は03年から工場で派遣社員として勤務し、09年に正社員になった。19年4月に製造部から技術部に異動し、係長から課長代理に昇格。仕事内容が大きく変わって業務量も増え、職場では仕事を終わらせることができず、業務用パソコンを自宅に持ち帰って仕事をしていたという。男性は19年10月、自宅で死亡した。

砺波労基署(砺波市)は21年3月、遺族側の請求に基づき、配置転換や仕事内容の変化・増大により男性が強い精神的負荷を受け、うつ病を発症したとして労災を認定。一方、持ち帰り残業について「会社からの業務命令によるものではなく、黙示の指示があったとする実態も認められない」などと指摘し、労働時間に該当しないと判断した。

 

記事の事実によれば、男性は派遣社員から工場で働き始めたとのことだ。このころは、仕事の責任も高くはなかったであろう。男性は、6年後の2009年に正社員になった。正社員という雇用形態になると、少し、緊張度が高まるだろう。これは、一般的な傾向ではあるが、通常に考えると男性もおそらくそうであっただろうと思える。

 

変化があるとすれば、技術部に異動になり、課長代理に昇格してからだ。企業において課長代理という役職を背負う精神は、そう簡単ではない。ましてや、誰もが知っているパナソニックグループにおける課長代理というプレッシャーも少なからず負荷されていたと推察する。

 

事実、「仕事内容が大きく変わった」、「業務量が増えた」とあるから、課長代理としての大変さがうかがえる。ここにある、この2つの事実は、精神疾患の労災認定基準にもある。ただし、労災認定は、精神的負荷の強度が「強」にならなければならないから、こうした事実があるだけでは弱い。

 

それに、本人だけが、精神的負荷が「強」だと感じただけでは、基準は突破できない。客観的に通常の労働者がそう感じるというレベルが必要だ。言い方を変えれば、平均的な従業員が「強」の負荷だと感じるかということが評価対象になる。

 

管轄した労働基準監督署では、ここまでの出来事は、うつ病発症による自殺要因になったとして認められた。よくよく、きちんと押さえておく必要があるが、労災認定の評価対象となる出来事は、発症前の出来事だ。ここは重要なポイントになる。

 

たとえば、つまずいて骨折した際には、骨折までの行動が原因となった出来事であって、骨折した後の出来事は骨折の原因ではない。精神疾患も同様に考える必要がある。

 

話を戻すと、結果は、労災が認定されたので良かったのだが、遺族からすれば、自宅においても、仕事に追われていた事実を知ってほしいというのが本音だろう。労働基準監督署は、自宅の持ち帰り残業を、指揮命令下の時間と認めなかったことは悔しさがあっただろう。

 

自宅の業務時間が労働時間ではないとされたことだ。もし、労働時間だけで審査をされるケースであったのであれば、労災認定の裁判になっていただろう。

 

自宅での業務実施が、従業員の任意の行為なのか、会社の指揮命令下の行為なのかの判断は、非常に困難だ。まず、会社からは業務行為や実施が見えない。従業員も極めて証拠に残しにくいし、一般的に証拠はないであろう。テレワークなどもこれに同じ状況になる部分が起こり得るところだ。

 

従業員や家族からすれば、「好きで家に持ち帰ったわけではない。仕事が終わらないからだ」というのが事実だろう。労働基準監督署のような行政機関は、業務命令や指示を示す文書、残業命令簿などでもない限り、なかなか認定しにくいのではないか。最大の理由は、一般的には会社が全面否定するからだ。

 

もちろん、会社は、いちいち、業務命令書など交付などしない。こうした掴めない事実を労働基準監督署は評価しない。かといって会社が認めるというのは、まずありえないし、ハードルが高い。

 

今回の事案が非常に貴重なのは、労働基準監督署が否定した、自宅での持ち帰り残業を会社が最大級に考慮したことだ。「持ち帰り残業」を含む長時間労働を正さずにいたことを重く見たのだ。うつ病を発症して死に至ったとして遺族に謝罪し、解決金を支払ったのは、とても珍しい。

 

本来は、法律の判断や裁判所の判断とは関係なしに、企業がこのような配慮した対応をすることが、従業員を人間として見ていたのだと思える要素になる。こうしたことは、裁判外紛争解決の手段である労働局や労働委員会のあっせんにも言える。従業員の人生があって労働を提供していることの重要性である。ましてや自殺となれば、無に扱うことは酷である。

 

亡くなった命は帰ってこないが、今回のパナソニックグループの対応には、拍手を送りたい。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】