「雇用調整助成金を不正受給か」のニュースに思う | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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助成金の不正受給に関するニュースが流れた。誰かのうわさではなく、しっかりとしたネットニュース記事で表示されるから、デマではないし、デマで片づけることもできない。不正が多い助成金なので、取り上げておくこととする。

 

記事の内容は次の通りである(公開記事の引用)。

 

旅行会社「ワールド航空サービス」(東京)が、コロナ禍の影響などで従業員を休ませた事業者に支給される雇用調整助成金(雇調金)を不正に受給していた疑いがあることがわかった。菊間潤吾会長が10日朝、報道陣の取材に明らかにした。東京労働局は支給を停止し、調査している。菊間氏は日本旅行業協会(JATA)の会長を務めている。

菊間氏によると、今年10月に東京労働局から不正の疑いを指摘され、外部の弁護士を含む第三者委員会を設けて調査を始めた。同社は昨年3月分から受給を始めたが、実際には休ませずに働かせていた疑いがある。

菊間氏は不正の有無を含めて詳細を把握していないとしたうえで、調査結果を近く公表する考えを明らかにした。

 

JATAは全国の旅行会社約1100社が加盟する業界団体。菊間氏は2012~14年に会長を務めた後、前会長の坂巻伸昭・東武トップツアーズ社長の急逝を受けて今年7月に再び会長に就いた。旅行業界はコロナ禍で訪日客が大幅に減り、国内旅行の自粛要請期間も長引いて、厳しい経営環境に立たされている。政府はコロナ禍への対応として支給額の上限を引き上げるなどの特例を昨春から拡充してきた。

 

昨年からの新型コロナ感染症の関係で、政府や厚生労働省がその活用を勧めたこともあり、雇用調整助成金はすっかり有名になった。雇用に無関係な一般の人の中でも、聞いたことがあるというくらいだ。労働者の立場でも認識している割合は高いのではないかと推測する。

 

国から見ると、とても勧めやすい代物が、雇用調整助成金だ。社労士業界の中では、雇調金と言っている。コロナで経営が苦しくなって従業員を休ませざるを得なくなった。それでも何とか雇用を維持してもらえませんか。給料をなんとか払って雇用を維持してもらえれば、助成金を出します。雇調金のメインはここにある。

 

細かい話ではあるが、当初は、提出書類が難しい、電話がつながらないなど、その手続きは決して順調にいく状況ではなく、苦労した企業も多かったと聞く。

 

今回の事案の話をしたいと思う。日本旅行業協会の会長の会社というところで、マスコミニュースの対象になったことも否定できない。雇調金を申請した企業は相当数あるはずで、不正受給の話も決して少なくはないはずである。

 

記事によれば、不正受給していたとあり、昨年3月から受給していたとあるので、雇調金は相応な期間に渡って受給されたということになる。しかし、「東京労働局は支給を停止し」とあるから、この10月に不正の疑いが発覚し支給が停止されているということのようだ。

 

指摘されている不正の内容は、従業員を休ませずに働かせていたこのようだ。少し、補足しておくと、雇調金は、経営が苦しくなっても雇用を続けて賃金を払うことだけが条件ではない。仕事の減少などにより従業員を休ませなければならなくなり、実際に休ませていることが必要である。

 

雇調金の不正行為の多くは、今回のニュースと同様、休ませずに働かせて賃金補填を雇調金で行っていることにある。働いた分の賃金を支払って、支払た分を雇調金でカバーするものだ。どの程度、働かせていたか、ある程度は休ませていたのかなどは記事からはわからない。

 

ただ、わずかでも、不正があれば不正受給の対象になる。書類上のミスなどとはレベルが異なる。ミスは、企業や人間が意図する故意の行為ではないが、不正行為は、意図した故意の行為だ。

 

弁護士による第三者委員会を立ち上げて社内調査とあるが、真実、不正行為がないならば、疑いをかけられた不正行為の有無だけの話であるから、助成金の不正受給に関しては無駄な行動になりかねない。助成金の種類を作成した従業員、書類、実際の勤務状況、これらを確認すれば容易に判明する。

 

ここに実態がある限りは、事実は隠せない。ところが、助成金の申請は紙ベースである(コロナの状況から一部ネット申請も可能であった)。帳簿はやろうと意図すれば、いかようにも作成できてしまう。休職か出勤かの記録、働いた時間などはその典型である。社会保険労務士としては企業のそのような行為は非常に恐ろしい。

 

休ませていない(働かせていた)場合には、弁護士が何か反論を工夫したり、主張を考えてなんとかなる世界でないのが助成金である。

 

ハローワークの窓口の机には、雇調金に関し注意を促すリーフレットが貼ってある。だいぶ前から目に入る形で掲示してある。不正行為が多いこと、助成金受給後の調査の場合のことなどである。小職が認識している限りでは、確か、従業員への聞き取りもする意向のことが書いてあったと思う。また、抜き打ちで調査が行われることも書いてあったと記憶している。

 

かなり前から案内があったのである。実は、雇調金はコロナが話題になってから有名になったが、助成金の始まりはかなり古い。古くからある助成金で、以前から不正受給が多いことで有名な助成金である。受給後に労働局や会計検査院の調査対象になる可能性がある。

 

記事によれば、不正受給の疑いとのことであるが、火のないところに煙はたたないという言葉が頭を過る。労働局が支給を停止するからには、火があると思われても仕方ないかもしれない。あるいは火にあたる個所を見出したのだろう。大きな火か小さな火かはわからないが、何らかの事実があると考えられる。

 

助成金への考えは理解できるが、助成金はお金の世界の話と考えてはいけない。労務の世界のことなのだ。従業員の雇用継続、休職、賃金の支払いが大きな柱だからだ。ないよりも、助成金の財源は、事業主が国に支払う雇用保険料である。

 

助成金申請業務が、社会保険労務士しか許されない独占業務となっている理由の一端でもある。お金のことだとひとまとめにして税理士に相談する経営者が多いと聞くが、税理士の業務ではないから解決にならないであろう。そもそも、税理士が助成金業務に携われば社会保険労務士法違反の対象になる。

 

助成金は要件や申請するタイミングなど細かいため、かなりの神経を使う。他の支援金や給付金とはまた、色合いが違うのである。詳細を知り、よくよく確認をしてとりかからなければ対応はできない代物である。

 

もっとも、今回のニュースは、そんなことは関係ない。従業員を休ませていたかどうかが最大の問題であり、雇調金のよくある典型的な不正行為に関係する疑いである。航空関連の企業なので、コロナ禍の中の事情は理解できる。しかし、もし、不正なのであれば、理由を問わず許されない行為である。

 

もし、不正受給が確定すれば、少なくとも一定期間、今後の助成金申請ができないなどペナルティは大きい。また、社会が徐々に正常化していって、経営回復とともに人材の雇用を必要とすることも考えられる。

 

助成金で不正受給の疑いがある企業ということが、知れ渡っていた場合には、求人や雇用にも影響してくる。企業イメージは、何よりも重要である。

 

労務全体に言えることだが、企業は、どんなに状況が苦しくても、経営や労務を取り繕うことを考えずに、向き合うことが、健全な労務につながると心しないといけないと、つくづく思うところである。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】