試用期間中の解雇の違法性 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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 試用期間中(期間満了日までと考えて)の解雇は、傾向として、まだまだ散見されます。果たして、試用期間中の解雇が認めるか否かの線引きはどのあたりで、どのような場合になるのでしょうか。本件は、従業員と業務上の顧客対応の要素の点で解雇を検討するのにいい例かと思います。

 

【事実概要】

 Y社は、事務管理部門の責任者として雇用したX(59歳)を入社18日後に解雇しました。本件は、試用期間中の解雇が不当であるとして争われた事件です。

 

Y社は、企業間情報処理業のほか、ネット通販サイトを管理運営している株式会社です。Xについては、平成25年2月26日に雇用し、同年3月15日に解雇しました。

 

Y社が、3月18日の電話で、同月15日付けで本採用しないことを通知したところ、Xが解雇なのか、解雇であれば理由を明らかにしてほしい旨を求めました。Y社は、雇用契約の終了であること、試用期間中であり、業務命令にしたがわなかったことが理由であることを主張しています。

 

認定された事実では、Xの7件の顧客との電話対応の内容が明らかになっています。それによれば、

「➀入金の督促メールがいったことのお詫びのメールをした、➁友人紹介の件で、友人の住所が最後までないので、電話等を連絡してほしい旨のFAXをした、➂振込みの案内のFAXをした、➃注文手続きが完了していないので、再度ご指示くださいとのFAXをした、➄注文内容、メールアドレス、氏名を調査して不明なので、ID NOを連絡してほしい旨のメールをした、➅㋐これだけの情報では調査できないので、ID NOか注文番号を連絡してほしい旨のメールをした、㋑IDとメールアドレスで調査しましたが不明なので、かごの中を確認してほしいこと、注文されていない状態になっていることのメールをした。㋒注文になっていないこと、注文番号が返信されても確定されなければ注文にならないことなどをメールした。➆注文内容はそちらのかごの中に残っていること、FAXの注文変更はそちらの画面で行ってほしいこと、注文確定のボタンをクリックすることなどをFAXした。」

との内容が確認されています。

 

➅の顧客は、「いったいこれらの通知メールはなんだったのですか。説明を求めます」等と苦情を述べました。

 

ちなみに、Y社には、応答基本方針、多用語、クレーマー対策、受注拒否・礼儀マナー等のマニュアルと称している回答例集がありました。Xには、友人から多額の借金があったことをY社が採用時に確認している事実がありました。

 

Y社は、Xがマニュアル通りの回答をしていないことが複数回行っていることは、業務命令違反であると主張しました。また、Xは、多額の借金があり、返済していないから、不正経理等を行う危険があるなどと主張しています。

 

【判決要旨】

判決は、「マニュアルは、顧客に対し誠実かつ配慮をもって対応せよという趣旨なので、マニュアルの例そのものを回答せよという趣旨ではない」「対応が、Y社と顧客の継続的な取引を阻害するものであるとは認められない。⑥の苦情もXの対応に対するものとは言えない」と述べています。借金の件は、採用時にあることを確認しており、不正経理等の危険があると評価はできない」としています。

 

結果、解雇は無効と判断されています。

 

 本件からは、Xの対応が、会社と顧客との取引に影響を与えるほどで、それが原因で契約を解除されるなどした、あるいは、幾度か苦情があり、注意指導を重ねても、将来的に改悛が難しいなどの状況になるなどが求められると解されます。試用期間であることを考慮しても、解雇は労働問題になりやすいことを踏まえ、慎重に検討すべきかと思われます。

 

(ジャコス事件・東京地裁平成26年1月21日判決/労判1097号87頁)