日本臨床エンブリオロジスト学会雑誌に当院のエンブリオロジスト冨田の論文が掲載されましたので、内容をご紹介します(抄録はこちら)
ヒト胚は通常、第一分割で2細胞に、第二分割で4細胞に分割しますが、1細胞が3細胞以上に分割するdirect cleavage (DC) や一度分割した細胞が融合するreverse cleavage (RC) と呼ばれる不規則な動態を呈することがあります。
このような動態が、培養成績および移植成績に及ぼす影響について検討を行いました。
2013年から2019年に当院で単一胚移植が行われた初期胚1050個、胚盤胞531個を対象として、第二分割までの初期分割動態の観察を行い、下記の5つの動態に分類し、各群の移植妊娠率及び流産率について比較検討を行いました。
・NC群 :第一分割で2細胞、第二分割で4細胞に分割した胚
・DC1群:第一分割で3細胞以上に分割した胚
・DC2群:第一分割で2細胞、第二分割で5細胞以上に分割した胚
・RC1群:第一分割で3細胞以上に分割した後、割球が融合し細胞数が減少した胚
・RC2群:第一分割で2細胞、第二分割で5細胞以上に分割した後、割球が融合し細胞
数が減少した胚
初期胚移植の結果は、DC1群はNC群より妊娠率が有意に低くなりましたが、流産率は各群間に有意差は認められませんでした。
胚盤胞移植では、妊娠率及び流産率は各群に有意差は認められませんでした。
胚盤胞移植時のGardner分類のグレードは、NC群はDC1群より高品質胚盤胞 (Gardner分類 : AA、AB、BA) の率が有意に高くなりました
本研究では、第一分割でDCが見られた胚は初期正常分割胚より有意に初期胚移植妊娠率が低く、そうした胚は胚盤胞発生率が低下することも報告されており、そのことは初期胚移植妊娠率の低下と強く関連します
これらのことの要因として、初期分割異常が染色体異常を引き起こすことや、三極分裂が染色体をランダムに3分離させることが考えられます。
胚盤胞移植妊娠率及び流産率は、DCの有無による差は見られなかったことから、本研究の結果は、胚盤胞に発育し、凍結基準を上回った胚は移植に用いることは問題ないことを示しています
RCが初期胚と胚盤胞いずれの移植成績にも影響を与えなかったことについては、RCにより生成された細胞はDC由来細胞より高率で胚盤胞を形成するという報告があり、RCが胚盤胞到達率に与える影響はDCより小さいと考えられます。
結論として、第一分割でDCが見られた胚の初期胚移植妊娠率は低く、移植順位を下げる、もしくは胚盤胞培養を行う方がよいと思われます。
また、第二分割でDCが認められた胚は正常分割胚と比較して初期胚移植妊娠率に有意差はありませんでしたが、ある程度負の影響がある可能性が考えられるため、第一分割DC胚よりは上位の移植順位に出来ますが、可能であれば胚盤胞培養を行うことが望ましいです
RCは初期胚移植成績に影響を及ぼさないことが示され、胚盤胞移植では初期分割様式による移植成績の差は見られませんでした。
結論として、いずれの分割様式であっても凍結基準に到達した胚盤胞であれば移植に用いることに問題はないことが示されました