最近、ヒトマイクロバイオーム(ヒトの体に共生する微生物の総体のこと)が健康や疾患にどのような影響を与えるか研究されています
その中で、不妊に対する影響も懸念されています。
そこで今回、尿中のマイクロバイオームが精液の状態と関連があるのか調べた論文を読んだのでご紹介します
対象は、初期不妊症の評価のために来院した18歳以上の男性または過去に子どもをもうけたことがある男性73名です。
グループ1:精液検査正常群vs精子濃度か精子運動性どちらかに1つ以上の不良があった群
グループ2:精子運動性について、正常群 vs不良群
グループ3:精子濃度について正常群 vs不良群
この3グループについて比較検討されました
過去に子どもをもうけた割合は、
グループ1:正常群(79%)vs不良群(33%)
グループ2:正常群(76%)vs不良群(56%)
グループ3:正常群(77%)vs不良群(19%)
でした。
対象者全員の尿中の微生物を調べたところ、Streptococcus mitis、Lactobacillus iners、 Pseudomonas fluorescens、Streptococcus anginosus、Enterococcus faecalisなどが多く検出されました。微生物の種類に違いはありませんでしたが、微生物の存在量に違いがありました。
また、分析結果より、この微生物の組成が精液の正常性に関連があることもわかりました
・グループ1
正常群と比較して不良群で、Dialister micraerophilusという微生物の存在量が多く、Staphylococcus haemolyticusという微生物が少なかった。
・グループ2
正常群と比較して不良群で、Dialister micraerophilusという微生物の存在量が多かった。
・グループ3
正常群と比較して不良群で、Enterococcus faecalisとStaphylococcus aureusという微生物が少なかった。
この研究において重要な微生物としての上位5種類はPeptoniphilus harei、Variovorax paradoxus、Dialister micraerophilus、Sphingomonas rhizogenes、Anaerococcus lactolyticusでした。他の研究で、Dialister micraerophilusは、免疫の活性化や酸化ストレスに関係がある可能性が示唆されており、それが精子の運動性に悪影響を及ぼす可能性があると考えられています
さらに、グループ2の精子の運動性が不良な群の尿は、細胞寿命に関連する経路で異常があり、葉酸生合性・メタン代謝・エーテル脂質代謝といった中間代謝に関する経路でも異常がありました
今回の研究では、尿中マイクロバイオームのどの微生物が精液の状態に影響を与える可能性があるかわかりました
今後、このマイクロバイオームの組成を正常にもっていくための研究や、対象者を増やしてさらなる研究が必要です
参考文献:Urine microbes and predictive metagenomic profiles associate with abnormalities in sperm parameters: implications for male subfertility. F&S Science 5.2 (2024): 163-173.