先日オンラインで行われたヨーロッパ生殖医学会(ESHRE)の発表で注目したい演題がありましたので紹介します。

 

Smooth endoplasmic reticulum clusters in oocytes influence pronuclear behaviour and morphokinetics at early-cleavage stage but have no negative impact on embryonic and pregnancy outcomes

(卵子の滑面小胞体凝集塊は発生初期の前核の動きと胚の動態に影響を与えるが、胚および妊娠の転帰には悪影響を及ぼさない)

 

採卵で得られた成熟卵子に、写真のような液胞状の構造物が見られることがあります。

 

 

これは滑面小胞体凝集塊(sERC)と呼ばれます。この報告は卵子にsERCがあることで胚発育や妊娠結果に影響があるかを調べたものです。

 

2014~2018年の6010周期のうちsERCが見られた卵子を含む周期は294周期でした。

sERCがある卵子とない卵子をタイムラプスインキュベーターで観察したところ、前核の出現時間と消失時間、2細胞、3細胞、4細胞になる時間はsERCがある卵子の方が有意に速くなりましたが、5細胞、8細胞、胚盤胞、拡張胚盤胞になる時間、および胚盤胞利用率には有意差がありませんでした。

 

単一胚移植後の出生率に相関はなく(sERCあり: 21.7%, sERCなし: 18.6%)、sERCがある卵子に由来する赤ちゃんはすべて健康でした。

 

 

sERCについては、過去にはsERC卵子から生まれた子は奇形率が高い、sERC卵子が採れた周期の他の卵子も着床率が低い、といった報告もありましたが、最近ではsERC卵子であっても受精率、良好胚率、妊娠率、産まれた子の奇形率に差はないという報告が非常に多く出てきています。

 

今回のヨーロッパ生殖医学会の報告でも、sERCがある卵子はない卵子と比較して4細胞までの動態が速くなるが、それ以降の動態や胚盤胞利用率、移植後の出生率には差がなく、生まれた赤ちゃんの健康にも問題がないことから、sERCがある卵子も治療に使用できると述べられています。

 

当院の治療でもsERCがある卵子が時おり見られますが、sERCがあったとしても、正常に受精して良好な初期胚や胚盤胞になるかということを重視して培養を行っています。