今回ご紹介する論文は多核についてです。

 

多核とは、通常割球の中に1つあるはずの核が2つ以上みられるもののことを指します。

主な原因は染色体の不分離によるものとされており、染色体数への異常が考えられます。

 

ちなみに今回ご紹介させていただく2細胞期多核と受精後の多核との違いは2細胞期多核の方は正常な受精を経ていますが、受精後の多核は異常受精によるものです。

 

今回の論文では異数性率、胚発生能、妊娠結果に多核がどのように影響しているかを検討しています。

 

本論文では、296周期でタイムラプスにより評価された2,441個の胚のうち、合計1055個(43.2%)が2細胞期で多核でした。(1割球のみ多核:606個、2割球とも多核:449個)

 

4細胞期での多核胚は357個と多核形成率が大幅に低下しました。(15.0%)

これは2細胞期から4細胞期の間で核の自己修正が行われていることを示唆しています。

 

患者因子での解析では患者年齢のみが2細胞期の多核形成の頻度に影響を与え、35歳以下よりも40歳以上の方で多核形成率が有意に高かったです。

 

分裂時間の解析では2細胞期多核の正倍数性胚と多核でない正倍数性胚を比較して、多核胚で5細胞期になるまでの平均時間が有意に長くなっていました。

 

胚盤胞に到達した607個の胚をPGS(着床前遺伝子スクリーニング)による解析をかけたところ、正倍数胚302個(49.8%)、異数性胚(染色体全体が影響を受けた)205個(33.8%)、分節異数性胚(一部の染色体が影響を受けた)83個(13.6%)でした。

正倍数性胚、異数性胚、分節異数性胚の2細胞期多核率はそれぞれ40.7%、46.7%、36.1%で有意差は認められませんでした。

 

妊娠率は2細胞期多核正倍数性胚で45.8%、非2細胞期多核正倍数性胚で51.1%でした。

 

この論文により正倍数性胚盤胞、異数性胚盤胞ともに同程度の2細胞期多核が見られることが分かりました。

これは正倍数性の予測の指標として多核の有無を用いることは適切でないことになります。

 

また多核胚は初期の分裂時に自己修復する能力があり、正常胚盤胞へと発達すれば多核が見られなかった胚と遜色ない妊娠率があることがわかりました。

 

当院でも以前に多核胚をNGSにより染色体解析した報告をしています。

NGSを用いた染色体解析における多核胚の評価

こちらの結果も多核の原因が必ずしも染色体異常にあるものではないと示されています。

 

参考文献:Impact of multinucleated blastomeres on embryo developmental competence, morphokinetics, and aneuploidy Fertility Steril 2016;106,608-614