形態運動異常を伴う胚は、正倍数の胚盤胞に発生する可能性があるという論文を読みましたので、ご紹介します。

 

この論文は、イタリアで2013年5月から2015年1月までに、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)を受けた26~48歳の141人の患者から得られた791個の胚を形態動態学的に分析しています。

 

重度の男性因子、高齢の女性、原因不明の反復流産、着床不全を繰り返した患者がPGT-Aを受けました。

 

分析結果は、791個の胚の中で、111個の胚が細胞分裂異常を示しました。

内訳は、1~3個へ直接分割が24個、5時間以内に1~3個へ急速分割が12個、2細胞から5細胞への分割が26個、2個の細胞が融合してしまう逆分割が20個、異常に延長した(4時間以上)3細胞から4細胞への分割が29個となりました。

 

細胞分裂異常を示した胚は、35歳未満の女性が15%、35歳から39歳までの女性が13%、39歳以上の女性が14.3%という結果になり、細胞分裂異常は年齢と関係しないことが分かりました。

 

 

更に、細胞分裂異常をA群とした111個の胚のうち24個(21.6%)は移植可能胚盤胞へと発生しました。

また、正常に細胞分裂した胚をB群とした680個の胚のうち252個(37.1%)が移植可能胚盤胞となったので、各々染色体解析を行いました。

 

A群では、24個のうち18個(75%)、B群では、252個のうち124個(49.2%)が正倍数胚盤胞という結果になりました。

A群とB群の間で染色体的に正常な胚盤胞の数に差が認められ、A群の方が正倍数体胚盤胞の割合が有意に高いことが分かりました。

 

細胞分裂異常を示した胚盤胞の方が正倍数体の率が高いという結果について、論文中では明確な説明は出来ないとしていますが、正倍数体胚盤胞に発達した細胞分裂異常胚は、桑実胚期の圧縮過程の間に、異常な細胞を排除することによって、受精後発育の過程で起こるとされるモザイク異数性から胚を救済し、胚盤胞に発生するための修正機能が働いていると推定されると述べられています。

 

当院でもタイムラプスインキュベーターでの培養を行っており、受精後の分割速度や細胞分裂パターンを観察し、胚の質を正確に評価して、良好胚の凍結を行っています。

 

参考文献:Embryos with morphokinetic abnormalities may develop into euploid

        blastocysts.(Lagalla et al., RBM Online 2017)