精子は形態的および機能的に成熟すると、細胞膜上にヒアルロン酸に付着するレセプターが発現します。一方、未成熟な精子はこのレセプターが発現していません。

またこれまでの諸研究から、精子の成熟度が高いほど、染色体異常率が低く、DNAの断片化が少ないことが明らかになっています。

 

PICSI(Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection)

通常の顕微授精(ICSI;intracytoplasmic sperm injection)では運動性や奇形性で精子を選別します。しかしながら、これらの視覚的な選別のみでは精子が保持するDNAの損傷が分からず、染色体異常による異常受精のリスクを回避できません。

PICSIは成熟精子のみが持つヒアルロン酸に付着する能力を利用し、成熟精子を選別し、ICSIを行う方法です。

 

 

PICSIが従来のICSIと比べて、妊娠率や出産率を改善するかどうかは必ずしも明確ではありませんでした。この論文は両者をランダム化比較試験で検討したものです。

PICSI群(1381例)とICSI群 (1371例)について、臨床的妊娠率(子宮内に胎嚢確認)・出産率・流産率を比較しました。

臨床的妊娠率はPICSI群が35.2%、ICSI群が35.7%で、統計学的に有意な違いは認められませんでした(p=0.80)。
出産率についてはPICSI群が27.4%、ICSI群が25.2%とこちらも統計学的に有意な違いは認められませんでした(p=0.18)。


しかし、流産率についてはPICSI群では4.3%、ICSI群では7.0%と、PICSI群の方がICSI群よりも有意に低くなっていました(p=0.003)。

今回の研究結果から、PICSIは従来のICSIと比較して、流産リスクを減少させることができるといえます。PICSIによる流産リスクの減少については、以前にも他の論文で報告されています。(今回の論文よりも症例数が少なく、特定の条件を満たす集団という限定付きではありますが、同様の傾向が観察されています。)

 

当院でもICSIの際、高濃度のヒアルロン酸を含む培地を使い、精子を選別する方法を採用しています。

 

 

Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection for infertility treatment (HABSelect): a parallel, two-group, randomised trial. Lancet 2019; 393:416-422.

 

Use of hyaluronan in the selection of sperm for intracytoplasmic sperm injection (ICSI): significant improvement in clinical outcomes--multicenter, double-blinded and randomized controlled trial. Hum Reprod 2013; 28:306-14