アメリカ在住の日本人の方がご自身のお子さんの言語習得事情について語っている記事やSNSへの書き込みを読んだ時、何かコメントしてあげた方がいいのかな〜と思うことがありますが、大きなお世話だと思って躊躇してしまいます。
年に1−2回、講演を依頼され、バイリンガル(二言語)習得について、主にアメリカ(英語圏)在住の日本人の保護者の方や、日本でインターナショナルスクールにお子さんを通わせている保護者の方を対象に日本語でお話をする機会があります。
私自身は、大学のファイナンシャルエイド(助成金)のしくみやアメリカの学校制度などを日本語で説明してもらえた方が理解が深まるし、私たち家族と同じような境遇の人がどのように大学受験の準備をしたり、学校選びをしたかを聞けてとても役に立ったので同じように他の方にも需要があれば情報提供したいと思っています。
よく聞かれるのが「アメリカ(や英語圏)に小さい時から住まないと完全なバイリンガルにはなれないのでしょうか」という質問です。この質問と同じく自分の子供がアメリカ生まれ育ちだというと「じゃ、お子さんは完璧なバイリンガルなんですね。」とよく言われます。
ロサンゼルスの山火事の時の記事にも書いたのですが、Greater Los Angelesと呼ばれるロサンゼルスカウンティや近隣の地域に住む日本人(あるいは日本語を話すと申告している人)は6万人ほどいるそうです。世帯数にしたら2万世帯くらいでしょうか。各世帯にお子さんが平均1−2人いるとして、就学児童・生徒は15000人くらいいると予測したとすると、これが家庭では(ある程度)日本語を話し、学校では英語で授業を受けている子供の数となります。実際にGreater Los Angelesと呼ばれる地域には日本語補習校や継承語学校がたくさんあり、3000人弱の小中学生が補習校に通っているというデータがあります。そして継承語学校や日本語学校で週末や放課後に日本語を習っている小中学生も1000人ぐらいはいるようです。継承語学校や日本語学校は生徒数や生徒の年齢の内訳を公表する義務はないので、推定なのですが、それでも領事館やアメリカの国勢調査に「日本語を使用している」と返答している家族のお子さんの3分の2くらいは、学校では「日本語」を学習していないという計算になります。
これまでのヨーロッパやアメリカの様々な言語間での「バイリンガル」研究では、多くの場合、家庭内だけで使用している言語と学校を含むコミュニティで使用されている言語が異なる場合、コミュニティでは使用されていない言語(アメリカで言えば日本語、日本で言えば英語など)はかなりの時間と教育機会を与えないと、12歳くらいまでに淘汰されてしまって、コミュニティで使用されている言語のモノリンガルになってしまうということです。
私は数多くの アメリカ生まれ育ちで高い日本語能力を維持し、英語による教育の成果を出した(具体的にはアメリカの有名大学にいい成績で合格)したバイリンガル達を見てきました。20年くらい前は家庭内だけで日本語を使用していて、補習校や塾などには一切行っていないという学生が私が教えている「継承日本語クラス」に半数くらいいました。今でも親がミリタリーに勤務していて、各地を転々としていたため補習校や塾などで日本語を勉強したことがない学生や、自習だけで漢字の読み書きや会話能力を伸ばしてきたという学生もいますが、概ね よほどの言語学習能力や本人のモチベーションがないと限界があるような気がしています。
けれど日本人の親御さんの多くは「英語は学校で学んでいて、ネイティブの子より成績もいいし、日本語は漢字は読めないけど、家族で話す分には問題ないからウチの子はバイリンガルだ」とおっしゃるので、そういう場合には「そうですね」とだけ答えるようにしています。「バイリンガル」の定義は本当に難しく、日本人が思い描く「日本語と英語のバイリンガル」と他の言語間のBilingualはまったく違う能力について話していることも多いので、どのようにアドバイスするべきか悩みます。
以前に受けた「バイリンガル子育て相談」への私の回答はこちらにまとめています。