バイリンガル研究を始めて30年余りが経ち、論文の数もかなり増えてきましたが、日本語で書いたものはほとんどなくリタイアしたらこれまでの論文を自分で翻訳しようかな...と考えていました。

 

けれど教育でも発達学は特に日進月歩で、もう数年前の理論や研究結果は使えないことがよくあります。

一般書を出している人は(こう言ったら失礼ですけど)昔の全然日本語学習者には関係ない言語の習得例を使って自分に都合のいい話を書いていたりしますが、私がそれをしてしまったら、もう2度と研究者として雇っていただくことはできなくなると思います。

 

時々、知り合いの方に「2言語を同時習得していると混乱するって本当ですか。」とか「ウチの子はもう完璧なバイリンガルなので英語はやめてもいいでしょうか」というようなご相談を受けることがあります。前者の場合、どのような形で同時習得しているのかにもよるし、1言語だけを習得していても「混乱している」と思われるような行動を取るお子さんはたくさんいます。後者の場合、親御さんが何を持って「完璧なバイリンガル」と言っているのか、またそのお子さんが現在何歳かにもよるので答えに困ります。

 

以前はバイリンガル育児を目指している親御さんによく会う機会がありました。ちょうど自分が子育て中だったのとアメリカで日本語教育をしている教育機関の仕事をしていたので立場上、個人的に診断をしたり、相談を受けたりすることは控えていました。今もそのスタンスは変わっていないのですが、子育ては後もどりできないのでもう少し親身になって話してあげたらよかったなと思うこともあります。

 

子育て経験者の方ならみんな感じることだと思いますが、たったひとつの正解はなく、お子さんによって また生活環境によって子育ての方法って変わってきませんか。教育も同じで誰もが成績がどんどんあがっていく唯一無二の教育法なんてないですよね。

 

なので私がおこなった教育法や私がいいと思う言語習得法もすべての子供に合うわけではないし、すべての子供がバイリンガルになるというわけでもありません。ただかなり多くのお子さんのデータを見るにつけ、何となく日本人で「英語と日本語のバイリンガル」になった人のパターンがわかってきました。

 

  • 幼少期(特に乳幼児期)の言葉の発達が早いお子さんは、一見 言語習得能力が高いように思われがちですが、二言語同時習得では混乱も起きやすいことがあります。こういうお子さんは学習能力が高く親の期待値も高いため、混乱が起きた時点で過度に心配して二言語習得をやめさせられる例がよくありました。
  • 幼少期(特に乳幼児期)に成長がゆるやかで、特に小柄なお子さんは脳の(生理的)発達もゆるやかなので、二言語同時習得に限らずアウトプットが遅れる可能性が高いです(←我が子がこのタイプでした)ここで「やっぱりウチの子は無理だ」とあきらめてしまう親御さんが多いです
  • 言語習得敏感期(2〜5歳)に後続型バイリンガル習得の機会を得たお子さんは、一時的に第二言語の方が優勢になることが多いです。これは脳が新しい刺激に強く反応するため、言語中枢のある分野の成長が活性化されるためです。モノリンガルの親は、自分の母語以外の言語の習得を過大評価する傾向が強いため、子供の第二言語の方の発達が早いと「バイリンガルになった」と思いがちです。ただし就学前の生活言語の優勢言語はその後の教育で変わることがよくあります。
 
モノリンガルの親が自己判断で、子供のバイリンガル言語習得を評価してしまうと、場合によってはお子さんの成長(こころと体の両面)にかなりの負担をかけてしまうことがあります。
 
夏休みに入ったら、これらの要因をまとめて「バイリンガルになった人が辿った言語習得の軌跡」として記事を書いていこうと思っています。今日はたまたま知り合いからバイリンガル教育について質問を受けたので、忘れないうちにちょっとだけ書いてみました。

 

 

 

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