私は日本語と英語のバイリンガルの研究を20年以上続けていて、「継承日本語」(Japanese as a heritage language)の分野にも深く関わっていますが、このキーワードで検索すると私の研究論文はまったく出てきません。
その理由の1つには、二言語習得(バイリンガル)に焦点を当てると、学習者にとってある言語が「継承語」であるかどうかはあまり気にならず、教育法(ペダゴジー)の観点で研究をする場合、ある一定の条件の人(例えば日本語話者)を対象にした教育法というのは「実践報告」で終わってしまうことが多いので、学会発表をすることはあってもそれを論文にはしてきませんでした。
それはさておき「継承日本語」(Japanese as a heritage language)ですが、これは日本国外で日本人の子供が日本語を親から習い継承していくという意味合いで「外国語」として日本語を習うのではなく、また母語として習うのとも違います。
もし日本国外に住んでいても、日本人学校などで日本語で教育を受け家庭内でも日本語を使い、日本語がその子にとって最も強い言語であるなら、日本語は「母語」あるいは「優勢言語」で「継承語」とは呼ばれません。
ある人にとって、日本語が「母語」なのか「継承語」なのか「外国語・第二言語」であるかは、その人の日本語の使用状況、家族に母語話者がいるかどうか、別の言語の発達状況などによって決まります。
継承日本語(Japanese as a heritage language)教育というのは、戦前からあり長い歴史がありますが、時代によってまたは地域によって、日本語の必要性やステータスなども異なり、どちらかというと地味に家族やコミュニティ単位でおこなわれてきました。
最近(というか、ここ30年くらい)は、海外で暮らす日本人家庭も増え、世界各地に「補習校」という週末や放課後に日本の教科書を使って、日本の学校と同じように勉強する学校ができました。そこで日本語を習い続けるのが、海外で日本語と現地語(アメリカだったら英語)のバイリンガルになる王道と思われてきました。
ただ、補習校というのは、あくまで日本に帰国する予定のある子供が日本に帰って日本語による教育にもどる時に問題がないように教育するところなので、日本に帰国予定がない(つまり海外永住予定の)子供には合わないこともよくあります。
本当に正直なところ、もし自分の子供が継承日本語(Japanese as a heritage language)を学んでいるということがなければ、あまり魅力のある分野ではないと思っています。私にとって「魅力がある」というのは研究のしがいがあるかどうかなのですが、言語習得者にとって、ある言語にどのような価値があるか(学習に必要、家族とのコミュニケーションに必要、日本で教育を受ける予定がある)かをアンケートなどで探り、その人の言語習得度と比較検討しても(おそらく)個人差がありすぎて、結果が何かに貢献できるような気がしません。
とはいうものの、我が子の成長の記録や、その間に見てきたことをもっと本格的に分析してみたいと思うようになり、1つのケーススタディとして論文を書こうかと思っている今日この頃です。
ネコはやっぱり袋に入るのが好きですね〜。
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