日本に一時帰国して、学会や講演でバイリンガルについてお話しすると、質問してくださるほとんどの方は「日本国内に住んで、日本語と英語のバイリンガルになる方法」が興味の中心のようです。

それは当然のことで、「アメリカに住んでいるスペイン語が母語の子供がどのようにしてバイリンガルになるか。」よりも「日本国内でどのような英語教育を受ければ、英語が上達して日本語と英語のバイリンガルになるか。」の方がずっと参加者にとっては身近に感じられる話題です。

 

以前から、何度も書いていますが、「日本語と英語のバイリンガルの研究」は他の言語に比べ、非常に数が少ないです。また「個人的体験や少人数の事例をもとにした論文」も多いため、なかなか研究が発展していきません。

 

日本人は「英語学習」への関心度は高く、早期英語教育は一大産業になっていますが、保護者の方や子供自身が「これだ!」と言う学習方法、言語習得に至れないのは、どうしても情報が「広告的」だったり「個人的経験」に偏りすぎているからなのかもしれません。

 

現在、言語教育者の大半が同意しているのは「第一言語の習得と第二言語の習得は異なる過程を経るため、第一言語と同じように第二言語を習得できるわけではない。」と言うことです。

そのため、生まれた時から2言語を習得していく「同時性バイリンガル」のバイリンガル習得の例は、日本における幼児英語教育への応用は難しく、例え0歳から英語教室に通っても、生まれた時から2言語を習得している子供とはか英語インプットの量・質がかなり差が出るので、同じようにバイリンガル習得していくわけではありません。

 

では、生まれた時から2言語を習得していく「同時性バイリンガル」というのは、どんな環境下にある人なのでしょう。

大きく分けて3つのパターンがあります。

  1. 家庭がバイリンガル環境で、家庭外でも両言語が使用できる。(カナダの英語とフランス語など)両親の母語が違っても両親ともがバイリンガルで、家庭では両言語が使用されていないとこのパターンには 当てはまらない。
  2. 家庭外(コミュニティ)の主要言語(例えばアメリカの英語)で1日の大半を過ごし、家庭内では親の母語を使用している、かつ就学時からは、親の母語の言語で学習する学校に通っている。(0歳から英語のみの保育所に6−8時間通い、家では日本人の母が育児をして就学してからは、現地校で現地語で教育を受け、補習校で親の母語で教育を受ける)
  3. 両親の母語が異なり、一人の親の母語の国で生活をしている、ダブルモノリンガルの子供。現地語ではコミュニケーションが取れない方の親と、その親の母語で意思疎通を取りながら、もう一人の親やコミュニティでは主要言語で教育を受ける。
日本語と英語のバイリンガルの場合、よほど特殊な環境でない限り、上のパターン1はあり得ません。ただどこに住んでいても両言語が同じように使われる環境は作れないことはないと思います。例えば、今週は日本人の家族とホームパーティ、翌週は英語話者の家族とだけ遊ぶ、学校は日本語と英語を両方教えてくれるイマージョン教育の学校、というような環境は不可能ではありません。
2は、海外子女で日本語補習校に通っていると、このパターンになりますが、この2言語同時習得を長年続けていくには、本人と家庭の相当な覚悟とモチベーションが必要となります。
1と3の違いは、3の場合は、両親とも、または片親がモノリンガルだということです。これは一見、子供は親の母語をバランスよく習い、2言語が同時に習得されるように思われがちですが、どうしてもどちらかの言語(大抵は学校で使用される言語やコミュニティでの主要言語)に偏りがちです。
 
長々と書いてしまいましたが、これらの特殊な環境下にあるバイリンガル話者のデータを日本の英語教育に当てはめようとしても無理があり、「やっぱり私(ウチの子)は英語は無理だわ。」となってしまう危険性があります。
 
もし、バイリンガル習得研究者が真剣に「日本国内において、日本語モノリンガルの両親が、子供を日本語と英語のバイリンガルにするにはどうしたらいいか。」を研究するなら、(私も含め)海外で言語習得を研究している人の文献、データに頼らず、日本国内でリサーチをおこなう必要があると思います。
 
その計画を日本政府の外郭団体に提出しましたが、今の段階で、私が言えるのは
ある年齢(14歳以降)に達してから、日本語と英語の後続性バイリンガルになった人の学習環境、学習方法のデータは、両言語を生まれた時から習得している同時性バイリンガルのデータより、日本の(早期を含む)英語教育には貢献できる」
ということだけです。
 
つまり、日本で英語を上達するための「神業」というのは現在は存在していない(かあるいは、存在していても検証結果が出ていない)けれど、今後の研究によって開発されていくという期待が持てるということをお伝えしたいです。