私は鍼灸師になり30年以上になりますが、その頃カイロプラクティックでのポキポキと音を鳴らす矯正が増え始めました。


それ以降、そのような矯正による事故が多発し、鍼灸師会などからポキポキ矯正への注意喚起や司法に対する対応要請などが起こりました。


また事故にあった方の法的訴えが通ることはあまり無かったそうで、そのため消費者センターに訴える方が増えポキポキ矯正は最近まで下火になりました。


最近またSNSでよく見かけるようになったのは新型コロナが始まってから来客患者が減少しSNS発信による集客や、SNSそのものから収入を得るようになったからではないかと感じます。治すことよりも視聴者数を増やすためにキャッチーな投稿を増やす、治療の業界にもそのような風潮が生まれているのではないでしょうか。


本当の治療をされている方もおられますので少し解説しておくと、カイロプラクティックはアメリカでは大学で学ぶもので医師に準ずるような資格です。


カイロプラクティックは骨そのものを矯正で治すというより、骨の位置を正して脊髄神経の圧迫を改善したり、自律神経を整える、これを目的とする手技療法です。

なのでカイロプラクティックでは歪んだ部分だけにスラストというほんの僅かな範囲の低振幅による矯正が行われます。


当時、カイロプラクティックと共に整体といわれる手技療法が少しずつ増え始めました。カイロプラクティックも整体も日本では公的資格ではありません。

ただカイロプラクティックのアメリカでの地位は前述の通りですが、整体の多くには医学的背景が少なかったようです。


代々の家系で行われたり、柔道の整復術の一部として行われた整体は本当の治療としても、それ以外の多くは一般の民間団体が教え広めたというのが実情のようです。


私が知る限りでは野口晴哉先生の『野口整体』が整体という言葉の起源ではないかと思います。ただこの野口整体を正当に継承している方もとても少ないようです。


鍼灸と同じく、本来の、本当の、元々の整体と呼ばれたものとは違う手技療法が整体として一般化した、という流れなのかもしれません。


一応国家資格を持ったプロである鍼灸師(治療師歴30年以上)の私から見ていて、最近SNSなどに流れている整体の情報で少し疑問に思うことがいくつかあります。もちろん私見なので誤った見識も含まれてしまう可能性もありますが、感じていることを書いてみます。


◆足の長さを測る

▶︎もちろん足の長さが違うのは骨盤の歪みのせいかもしれませんが、元々人間の身体は左右同じものは何一つありません。内臓は一番重い肝臓が右寄りですし、リンパも左右で全く違います。

足の長さや身体の傾きも個人でそもそも違います。これは体質などにも影響を受けています。これらが痛みの元になるケースはそう多くはないように思います。もちろん本当に歪みが原因で矯正で治るものがあるのも事実だと思いますが、これが出来る本当の治療師の方はとても少ないように思います。


では何故矯正で痛みが軽減するか?

愚考ではありますが、ポキポキという骨の振動が痛みを伝えている神経の電気伝達の振動数を変化させ、一時的に痛み伝達の様相が変わるからではないか?と考えています。


◆うつ伏せで膝を曲げて踵の高さを測り骨盤の歪みを診る

▶︎これもよくある情報なのですが、冷静に見るとこれは膝から踵までの長さしか診断できず、これをもって骨盤の歪みという診断にはならないのではないかと感じています。良い悪いではなく、行っておられる方はこのような方法を教わっておられるのだと思います。


◆歪みを診断していても左右同じように矯正を行う

▶︎徒手検査や触診により「ここが右(または左)にズレている」という診断の情報を見かけますが、その結果左側臥位(左横向け寝)でも右側臥位(右向け寝)でも、両方に矯正を行いポキポキと骨を鳴らします。首も頸椎の歪みを指摘されてから左右ともに捻って矯正をかけられている情報が多いように思います。

左右どちらかに歪んでいるのであれば片方だけに矯正をかける、ということであれば分かるのですが両方共に矯正を行われるのは矛盾があるように感じてしまいます。


◆ポキポキ音が何回も鳴る

▶︎頸椎、胸椎、腰椎の〇〇番が歪んでいると診断された後矯正を行われるのですが、1度の矯正でポキポキ音は1回ではなく2〜4回くらいなっているような情報をよく見かけます。これは診断と矯正結果が伴っていないように感じます。


◆矯正をした後の「オッケー」「よっしゃ」などの掛け声や動作

▶︎これは本当の医学的行為ではなかなか見かけない場面です。反動をつけて矯正を行われた後にこのような動作がついてしまうのではないかと思いますが、私たちが行う治療の現場ではこのような行為は被術者に不安や嫌悪感を与える可能性があるため行うことはありません。


◆反動を利用する

▶︎これもよくあることですが、矯正前に何度か揺らしてその反動で矯正をかけられるケースが多いのですが、これは非常に危険を感じます。カイロプラクティックのスラストの場合でも最低限の範囲で極低振動で行われるため反動も必要ないと思われます。以下の動画の方の施術などをみているとそのことがよくわかります。リラックスさせるために揺らされるということもあるかもしれませんが、それならこの動画の方のように穏やかな語り口や尊厳ある身体の触れ方をすることで副交感神経が優位になるのでリラックスできると思います。

https://vt.tiktok.com/ZShJh6WJa/


◆反り腰、巻き肩などなど、その時期のキラーワード的言葉が存在する

▶︎30年くらい前に整体が少しずつ増えてきた頃には「頸椎の歪み」が痛みの原因と言われるようになり、その後「骨盤の歪み」→「骨盤矯正」→「産後の骨盤矯正」と言われるようになりました。近年では「筋膜剥がし」→「肩甲骨剥がし」→「巻き肩」「反り腰」が時期ごとに変遷しているようです。恐らくですが巻き肩や反り腰という言葉は後1〜2年もしないうちにあまり使われなくなるのではないでしょうか。また数年単位で人間の不調の原因がこんなに変化していくということも考えにくいと思います。


色々書いてみましたが、全ての方がそうというわけではありません。本当の治療家の方もおられますし、実際にそういう先生も知っています。


そういう先生方は議論でエネルギーを浪費するよりも治療を大切にされるのであまり情報発信をしたり、これがおかしいなどというような発信もされないことが多いのでSNSの世界では無名であることが多いと思います。


これは鍼灸の世界でも同じであり、私が尊敬できると感じる先生方はSNSでの発信をほとんどなさっていません。


では何故私が発信するのかというと、当サロンにお見えになる方のほとんどが色んな治療を受けて治っていない方であり、そのほとんどの方が矯正や整体を受けたことがあるが変化がなかった、あるいはかえって思わしくないと仰るケースがあるからです。


それをお聞きすると一般の方はここに書いたような治療の業界の実情をほとんどご存知ないと思われ、実情を知って頂いた上で本当の施術を選んで頂きたいと願うからです。これは矯正や整体だけではなく、鍼灸や漢方でも同じです。


鍼灸の場合には何か症状に反動があると「鍼はあなたに合わない」とまで言われたというケースも少なからず耳にします。


本来の東洋医学は「神経が過敏になり過ぎているため鍼という刺激にも過剰な反応が起こる可能性がある」ということを診断して、それに合わせて適切な治療を行うものです。


なので鍼が合わない、などということはなく「自律神経の状態が過度に乱れている、あるいは神経過敏が過剰に起こっているので治療の反動が大きく起こる可能性があるのでその土台から治していきましょう」と診断して治療を行うというのが本当の東洋医学です。


そのような状態を東洋医学的に診断するのが「脈診」や「舌診」などの東洋医学独自の診断法です。自律神経の状態が脈などに反映するため、脈診を行ってその方の神経の状態などを伺います。これを行われていない鍼灸や漢方が残念ながらとても多いのが実情です。特にメンタルケアや自律神経系の繊細な治療を東洋医学で受けたいと思われる時には「脈診」を行われる鍼灸や漢方を選んで頂ければと思います。


もちろん西洋医学的な鍼や漢方の使い方がダメということではありませんが、鍼灸も漢方も元々は東洋医学理論から生まれているツールであることは動かしようのない事実であり、


東洋医学理論を抜きにして西洋医学や科学のみで鍼灸や漢方を使うというのは「本来の使い方ではない」ということもまた事実です。


このように治療の業界には一般の方があまりご存知ない実態があります。


これらを知った上で治療を選んで頂きたい、症状がこじれるのを防いで頂きたい、そのために皆様がホンモノと思えるような東洋医学や整体を選んで頂きたい、そんな思いからこの記事を書かせて頂きました。


なかなか治らず藁をも掴む思いで受けられるのが代替医療だと思います。なので更なる悪化を防ぐためにも、一刻も早い回復のためにも実情を知って頂いた上で適切な治療を選択して受けて頂ければと思います。


分不相応な発信ではありますが、少しでも皆様の治療のお役に立てれば幸甚です。