松田優一 47歳 /7 | ラフィンムーンカメラのごはんとお酒と妄想の日々

ラフィンムーンカメラのごはんとお酒と妄想の日々

撮ったり、つぶやいたり、美味しい記憶…全ては明日へのラブレター

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「あかり、あかり・・確かこの辺なんだよなぁ・・」

松田は昔の記憶を頼りにリカの店を探していた。そこへふっと目に入ってきた居酒屋『あかり』。新しいビルにはさまれて、店先に赤いちょうちんと自転車。松田がケンジと一緒にリカを送り届けた懐かしい店。周りはあの頃とはすっかり変わってしまっているけれど居酒屋『あかり』だけは、赤いちょうちんがぶら下げられた以外はリカの父親の明が寿司屋をやっていた時のままだった。松田は少し手前で足を止め、一瞬あの頃のことを思い出していた。

 

ガラガラガラーっと木製の引き戸が開いて赤ら顔のご機嫌な60代くらいの男性二人が出てきた。そしてその二人を見送りに店先に出てきたのはリカの母、サクラだった。

「ごちそうさまー。サクラさんじゃ、またー」

「はい、ありがとうございました。」

しばらく客を見送った後、サクラは松田に気が付いた。

「あら?ひょっとしてあなた松田君?松田君よね。あらぁ、何年振りかしら?寄ってくでしょ?さ、入って入って」

「お久しぶりです」

「ほらとりあえず入って入って」

「リカ、お客さんだよ」

「いらっしゃい・・え、松田君?久し振りー!いらっしゃいませ。どうぞ。ビールでいい?」

「うん、あぁ」

「リカ、キリがいいし、お客さん松田君だけだし、もう今日はちょうちんいいんじゃない?消しとくよ」

「そうね。懐かしい顔が来てくれたし、3人で飲んじゃお」

「賛成」

そういうと、サクラは店先のちょうちんの灯りを消した。

「ゆるい店だな」

「おつまみ適当に出していいわよね?」

にんにく醤油味の唐揚げ、大根おろしを添えただし巻き卵、それにピリッとわさびがきいて白ごまをトッピングした山菜入りのいなりずし。あかりの人気メニューが並んだところでリカも席に着いた。

「はい、おつかれさま」

と、サクラは3つのグラスにビールを注いだ。

「久しぶりの松田君との再会を祝して乾杯」

「おつかれーっす」

ゴクゴクゴクと一気に飲み干し

「んー、うまい!」

と思わず声がそろった3人。

「松田君、今なにやってるの?」

と、言いながら空いた3つのグラスに再びビールを注ぐサクラ。

「今、探偵やってます」

「へぇ、探偵? 探偵ってほら、むかしあの、あのー誰だっけ?・・・あ、そう松田優作がテレビでやってたじゃない。あーいうの?」

「まぁ、そんな感じです」

「そういや苗字も松田だし、ほら、このもじゃもじゃっとしたとことか、ちょっと優作ふうじゃない?ひょっとしてちょっと意識してたりして」

「してないっすよ~」

ただのくせ毛なんです」

「探偵やってるんだ、松田君。探偵ってどんなことするの?やっぱり浮気調査とか?」

「うん、まぁ、人探しとか・・」

「へぇ~。大変そう。でもなんだかちょっと面白そうね」

「う~ん・・・どうかなぁ」

少しシワができたところをのぞけば、昔と変わらない無邪気なリカの笑顔に、懐かしさと同時に松田は胸の奥の方にキュンと一瞬痛みを感じていた。

「あ、そうそうミチっていうんだっけ?お前んちの娘」

「え?松田君、なんでミチを知ってるの?」

「ネコ・・あぁ仕事で人さがしてる時に偶然知り合ったんだ」

「へぇ、そうだったのね」

「アイツ、時々学校サボってウチに来てるぞ」

「あぁ、そうなのね。時々担任の先生からまだ登校してきてないですけど具合でも悪いんですか?って連絡来てたけど、でも松田君ちに行ってるなら安心したわ」

「サボってる事知ってたのか。叱らないのか?」

「だって困るのは私じゃないわ。ミチ本人。一度くらい困ればいいのよ。それで、しまったー!ってどこかで気が付けば」

「大丈夫か?グレちゃったりとか・・」

「私は信じるわ。あの子を。子供なんて親の思い通りにならなくて当然だし、自分で気付いて自分で考えられる人になってほしいの。それでどんなことが起こっても乗り越えていってほしい。他人や自分の命さえ大切にしてくれたらそれでいい。あとはミチが好きなようにすれば」

「あら、リカ、あんたいつの間にかずいぶんとお母さんぽい事いうようになってたのねぇ」

「ぽいって、一応17年ほど母親させてもらってます」

「命かぁ・・そうだな。・・・あ、ケンジ・・・」

「ケンちゃん、死んじゃった」

「あぁ、アイツから聞いた。自殺なんだって?」

「そうらしいんだけど、私、何がなんだか全然わからないの。理由も言わずに突然離婚して欲しいって言ってそのまま出ていっちゃったの」

「オンナとか・・」

「私もそうなのかなと思って聞いたんだけど、ケンちゃん、何にも答えてくれなかった。で、居場所が分かった時にはもう、ケンちゃん、この世にいなかった。勝手よね。私のこと一生大事にするって言ったのに・・ウソばっかり。ねぇ、松田君、ケンちゃんに何があったのか調べることできる?」

「娘とおんなじこと言ってる」

「え?」

「アイツもそう言ってた」

「そっかぁ・・やっぱり無理よね。今さら死んじゃった人のこと調べるなんて」

「まぁ、簡単じゃないことは確かだな。それに、もし真相がわかったとして、リカが知りたくないようなことが出てくる可能性だって充分ある。そして全てが分かったとしてもケンジはもう戻ってこない」

「うん・・だけど私、ケンちゃんが自殺だなんてどうしても信じられなくて。何か事件とかに巻き込まれたのかな・・とか・・。ねぇ、松田君調べられない?もちろんちゃんとギャラは払うから仕事として正式に受けてくれない?」

「う~ん・・・で、何か少しくらい手がかりはあるのか?」

「あら?契約成立?さぁ、松田君、ほら、唐揚げ食べなさい。冷めちゃうじゃない。今夜はせっかくの再会の夜なのに、二人とも難しい顔しちゃってー。ビールもぬるくなっちゃうわよ」

「あ、うん、いただきます。うん、うめぇ、サクラさんの唐揚げ最高っす」

「でしょ。これが代々伝わる遠野家秘伝の味」

「代々ってこの味の初代は私よ。そんな死んじゃった人みたいに言わないで頂戴。私はまだまだ現役よ!

「あ、そうね。お母さん、ごめんごめん」

「はい、ビールも飲んで飲んで」

松田がこの街を出て20年ぶりくらいの再会だったけれど、まるでつい先週もこうしていたかのような、それはとても自然な時間だった。

 

 

 

To be continued