松田優一 47歳 / 3 | ラフィンムーンカメラのごはんとお酒と妄想の日々

ラフィンムーンカメラのごはんとお酒と妄想の日々

撮ったり、つぶやいたり、美味しい記憶…全ては明日へのラブレター

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松田と沢田ケンジは高校の同級生、そして二つ下のリカ、剣道部に所属していた三人は、なんとなく気が合って部活終わりにはたいてい一緒に帰ったりしていた。

大学は別々の所に通っていたけれど、時間のある時には会って高校生の時と変わらず三人で遊んでいた。

 

「あ、もしもしリカちゃん?来週のリカちゃんの誕生日さ、いつもみたく三人でゴハン行こうよ。俺、美味しいお店予約しておくからさ期待してて」

「わぁ、本当?嬉しい、ありがとう。うん、楽しみにしてる~」

 

 

「あ、松っちゃん、こっちこっち」

 

リカの誕生日にケンジが予約したのは素描を意味するフランス語Esquisse(エスキス)というフレンチレストラン。

三人がいつも行くようなお店とはかなり違う落ち着いた感じだけれど、気取りすぎない、いい雰囲気の高級レストランだ。

待ち合わせの10分前に着いた松田を、30分前にすでに到着していたケンジが呼んだ。

眼鏡をかけて紺色のブレザーに赤い蝶ネクタイのケンジ。

「お前コナンかよ」

そう言われたケンジは蝶ネクタイのゆがみを直しながら

「松っちゃんのもあるよ」

そう言ってポケットからおそろいの蝶ネクタイを取り出して松田に渡す。

「え、俺はそれはいいよ~」

「だって高級フレンチだよ。さ、早く松っちゃんもつけてつけて」

「マジかー・・」

そう言いながらケンジから受け取った蝶ネクタイをしぶしぶ松田はつけた。

しばらくして現れたリカも今日はいつもより、メイクも服も大人っぽい雰囲気だ。

「わぁ、リカちゃんなんだか今日大人っぽいなぁ。うん、いいね、いい。ね、松っちゃん」

「お、おう」

「揃ったところでちょうどいい時間だし、さ、さ中へ参りましょう」

 

 

三人が案内されたのは、入り口から少し先の中央辺りのテーブル席。

静かにワイングラスを傾ける、品の良いスマートなジャケットを着なれた感じで身にまとった男性とシンプルなベージュのワンピースを着た女性の大人のカップルや海外旅行のお土産話に盛り上がる、メイクに抜かりの無い4,50代の女性4人のグループ、落ち着いたお店の雰囲気の中でもそれぞれのトーンで会話や食事を楽しんでいる。

 

「なぁ、俺たち浮いてないか?」

「本当、なんだか緊張しちゃうわ」

「大丈夫、大丈夫。だってリカちゃんはこの中で一番きれいだし、松っちゃんと俺にはコレがあるし」

と、ケンジは蝶ネクタイをつまんでみせた。

「いや、ケンジ、むしろ俺にはコレが浮いてるように思えるんだけど・・」

「もう、松っちゃん、大丈夫だってば。俺の見立てどうりばっちり似合ってるからぁ。ダイソーってホント便利だよね」

「100円かよ」

 

食前酒のシャンパンが三人のテーブルに運ばれてきた。

「はい、じゃあ、リカちゃん、20歳の誕生日おめでとう。」

「おめでと」

「二人ともありがとう。そしてこれからもよろしくお願いします。」

大きなプレートに品よく季節の野菜や白身の魚が盛られた前菜にはじまり、スープ、そしてメイン料理へと絶妙なタイミングで丁寧に一皿ずつ料理が運ばれてくる。白いプレートの上に思いのままに描いた素描のような大胆さと素材に対する繊細さ、Esquisseの料理はどれも芸術的で美しく、美味しい。緊張しながらも三人はいつの間にかこの非日常の世界に地上から3㎝浮いたような気分で引き込まれていた。

 

「素敵すぎてなんだか夢見てるみたいだわ。それにしてもケンちゃん、よくこんなお店知ってたわね。誰かとデートでもしたの?」

「してないしてない。リカちゃんの二十歳の誕生日だしさ、ほら19でも21でもなくて20歳の誕生日ってなんかちょっと特別な感じじゃん?だから、せっかくならさグイ~っと思い出に残る誕生日にしようかなと思ってさ。」

「うん、一生忘れられない誕生日になった。本当にありがとうね。」

口直しのソルベの後に肉料理、そして、クリーミーなブリー、綺麗なオレンジ色のミモレット、白と緑のマーブル模様でピリッと刺激的なロックフォールの三種類が少しずつ盛られたチーズ。

「チーズとワインてやっぱり合うんだね。こういうチーズにワインなんてなんだか急に大人になった気分だわ。初めてだけど美味しい。」

「だよね~」

「な、言ってもいいか。俺、ワインの味とかわかんねぇ。あと、カビのはえたチーズとかもちょっと・・」

「うん、私も本当はワインはよくわかんないんだけどね」

「あ、もうなに二人とも~。実は俺もわかんない」

「なんだよ、それ」

「だってさ、たまにはさ、こういうことしてみたいじゃん。」

「うん、そうね。だってハタチだもんね」

「そうそう、ハタチだから」

 

 

 

 

To be continued