いよいよ、敬愛するアレクサンダー・ルイス氏が出演する『オペラ座の怪人』オーストラリア上演版を観ることにする

 

以前の記事でも触れたように、彼とクリスティーヌ役であるアナ・マリーナさんによる二重唱(劇中で歌われる"All I Ask of You")は聴いたことがあるものの、それ以外については間欠的な知識しか持ち合わせていなかった。その素地として過去に同作複数上演版(映画/25周年記念公演/劇団四季)について履修済みとはいえ、何せ記憶力に優れた方でもないから、大した咀嚼力とそれによる理解は甚だ期待できない

 

況や「何の覚悟や下準備が出来ていることを意味しない」。でも、彼の見目麗しい外貌をしてはもう待つことが出来なかった

 

 

⚠『オペラ座の怪人』と同作品の愛好者は激おこ必須なので読まないこと⚠

 

 

 

折角の自宅鑑賞ゆえ時系列順に主な感想を列記していくことにする(※無論お酒を飲みながら観てるから後半へ進むにつれて頭がおかしいこと請け合い)

 

 

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冒頭)

ここで在りし日の青春の思い出を滲ませるA.ルイス氏を間近で見たいよ。ご父君に似ていらっしゃるかどうかを答え合わせする絶好の機会だった訳だからね。もし似ていたら未来を見届けるまでもなかったのに。こうして正解を知ることが出来なかった上は、彼をこの先も何十年と追い駆けずにはいられないことが決定付けられてしまったな

 

いや、なんかシャンデリアでっか…!? こんなに大きいんでしたっけ。それとも劇場格に比例して大きさや規模が変わるとかあるんですかね自分で言っててそんな訳ないよねって分かってるそんな訳なかったわ

 

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劇中劇)

改めて考えてみたらカルロッタって初っ端からとんでもない高音を要求される過酷な役だよね。所謂3大オペラのひとつに数えられる『ラ・ボエーム』を名作たらしめんとする一要素として冒頭のロドルフォによるHi-Cが上げられると考えているけれど、このミュージカルの代表作とも言うべき今作もまた彼女の歌唱力なくしては語れないよな

 

これまで観てきた中で、恐らく最もオペラ歌手としての素養を色濃く出(すことに成功してい)るピアンジ。もしかしたら実際に彼はオペラ歌手なのかも知れないな、これまでに観てきた他国版とは異なって豪州版は主演のアンソニー・ウォロウをはじめ二足の草鞋を履いている芸達者な御仁があまりにも多い印象だ

 

もしかしなくてもクリスティーヌって遅れてのご登場なんだね。これまでに三作も観てきたのにはじめて気付いたよ。こういうとこだよね、だから同僚が髪を切っても分からないんだ

 

あれ、既に酔いが回ってきたかな。なんかうしろに象が現れてません?

 

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"Think of Me"

新支配人達に求められて自慢の喉を鳴らすカルロッタに突如として降り掛かる厄災。一体さ、何が怪人は気に入らなくてこんなことするの。だって高次元の(メタ的な)視点のご都合主義以外では、ここで新支配人達の御前を辞すカルロッタの行動なんて想像だにしないはず。もしクリスティーヌに代役を務めさせたいなら、お得意の手紙をしたためさえすればいいのに。これらを総合的に考えたら、やっぱり怪人とカルロッタの過去を穿ちたくなってしまうんだよな

 

どうしてもA.ルイス氏の演じるシャニュイ子爵を観てみたかった、それと同じくらいにアナ・マリーナ嬢のクリスティーヌに期待もしていた。以前にも書いたかも知れないけれど、この顔立ちに対してこの肢体とか些か反則が過ぎる。彼女を新しい歌姫として育て上げる過程で下心を膨らませなかった怪人も、その再会の夜に思い遂げなかったラウルも偉過ぎるよ。まじで中の人達よく恋せずに済んだね???

 

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シャニュイ子爵ご登場)

うわあ、ちょっと言葉にならないな…ごめんね、一旦止めるね? うわあ…

 

これまでに乱れたことなんか一度もないのじゃないかと思わせる端整に撫で付けられた髪も貴族としての居住まい正しい生き様を体現したような均整の取れた頭身も見る者の目を奪う。それになんて甘やかに歌うんだろう。しかも、そこには少年のようにあどけない無邪気さも匂わせてる。そして、何よりも…こんな遠景からでも見目麗しいのが分かるってどういうことなの!

 

こんなに甘やかに歌ったら、この後に控えた第一幕最後の"All I Ask of You"とかどうなっちゃうんだ…。「彼に限ってまさか」とは思えど、どんなに手練れた役者でも役柄にのめり込み過ぎるあまりに計算が狂うことはあるものだし、まして彼にとって今役は「最初に得たいくつかの役のうちのひとつ」でしょう? 全体的な配分を見誤ったり今後の展開に齟齬が出る可能性だって有り得なくはないよね。だって、我が国のミュージカル界ではそうした事態は珍しからずに散見されるし。彼を信じられる、大丈夫だよね…? 

 

さまざまなラウル像を観てきた、「白馬の王子型」「傲慢な特権階級を体現したような若造」「完璧で隙のない紳士」。彼はそのどれもつぶさに満たすようでいて、それらのどれとも似らない魅力を無自覚にも如何なく発揮しているように見える。あくまで第一印象について一語で言い切るなら、彼は「常人たる老若男女が考え得る限りにおける敬愛すべき貴族」「時に母性を擽る少年様であり時には庇護者となって導いてくれる理想的な恋人」それに「一般的な視座においても人類愛や博愛を健気にも信じる好ましい人物」である。ははっ、どこが一語なんだろう。彼について語りたいことは、その星の数を下らずあるのだから許して

 

ああ、彼のラウル・ド・シャニュイ子爵に対する解釈とその表現力はこの上ないほどだよ。「誰にも似らない」と書いたその舌の根も乾かぬ内に、誰かをすぐに喩えようとする自分の悪癖が出てしまいがち。「その品性を担保しながら、まだ少年期に相見えた生涯ただ一人を相手を等身大の豪胆さで愛し続けたアンリ2世」 「偉大なる父親に対する敬慕と時代の激動に揉まれた母親に向けた愛憎ゆえに魂の番を求めたナポレオン2世」「自らの立ち位置を理解して理性的に振る舞う唯一のプリンス・コンソートことアルバート公」…彼らすべての面影を合わせたとて、まだこのラウルには足りないって思うよ

 

「彼女は覚えていないだろう」って正気の沙汰とは思えないな、そのご尊顔を忘れるくらいに浅はかならマダム・ジリーの鍛錬には適わず、怪人から音楽の薫陶を受け続けることさえないよ。自分が誰かさえ分からないってば、ほんと自分の美しさに無自覚なラウル最高だな

 

まったく作品とは関係ないし、どうでもいいことだから言語化しないのが得策だってことは分かってる。でもさ、もしベンとアレクサンダーから成るルイス兄弟を歴史上の人物に喩えるなら最適解は「フランツ・フェルディナントと麗しのオットー」じゃない? 自分なりの理想を追求したい兄と、それを抱えながらも気負いを感じさせずに陽気な気質で知られる弟の類型。どうでもよくないからこの際言うけれど、もし機会があればベンの英文学学位論文読みたいな

 

「彼ってラウル役を演じるために生まれてきたみたいに適役だな」って思い掛けたものの、彼が『メリーウィドウ』のサン=ブリオッシュを演じた時も『ソロチンスクの定期市』のグリツィコにを演じた時も同じことを感じたのだった。改めて素晴らしい役者だよね。それはそれとして、彼にはラウル役が適材だと思う。例えば、何も知らない誰かにベンとアル氏の写真を提示して「どちらが怪人役でどちらがラウル役でしょう?」って訊いたら、恐らく回答者全員が正解を導き出せるはず。このように回答者の出身国や人種あるいは宗教などの背景に関わらずに全員が「兄が怪人役で弟がラウル役である」と答え得る現象は心理学において「ルイス家ブーバ/キキ効果」としてよく知られており…

 

これまでに観てきたラウルは、それぞれの意味においてはどれも完璧だった。はじめて観た映画版は完全無欠の白馬の王子だったし、同作上演25周年記念公演版は怪人にとって鼻持ちならない貴族位にある傲慢な若造で、劇団四季版はひたすらに完成された紳士だった。そのすべての要素を叶える彼のラウルは至高だ、昔くらもちふさこが描いていたように「最も不可能を感じさせない人物こそが運命の相手」なのかも

 

「彼のラウル・ド・シャニュイ子爵を愛せるだろうか?」って本気で心配してた。「よもやこれで幻滅する羽目になったらどうしよう」とさえ思ってたよ。まじで杞憂だったな。そもそもどんなにいけ好かない人物だったとして、その温容を以ってしては愛さずにはいられないことを知らない訳ではなかったのに

 

彼に理知的な黒髪と素晴らしい鼻梁を授けてくださったママ・プライス&パパ・ルイスありがとう。彼は稀代の役者であり、他の追随を許さない優れた歌手であり、誰しもの心奪う魅力に溢れた舞踏家でもある。とはいえ、彼がこんなに見目麗しい外貌を持ち合わせていなければ、そうした事実に出会うことさえもなかっただろうな。この期に及んではそれを恐ろしいと感じるよ、それほどまでに彼に夢中なんだ

 

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ここで区切るって正気の沙汰とは思えないよね、自分でも驚いてる。でも、今夜はこれ以上の情報を咀嚼できる気がしないんだ。だって、あの度胸と愛嬌の両方を備えたラウルを観続けるには覚悟が必要だから

 

こんな人物を前にして一切も心乱さない豪州人すご過ぎるな。これまで「あんなにも可愛いコアラを貸してくれてありがとう」って感謝に絶えなかったけれど、今となっては彼を擁している以上は、その恩恵あればこそ他国に寛容になれるんだってことを思い知ったよ。もっともお貸し出し戴いている全国各地津々浦々のコアラをお返ししてでも彼が再来日してくれる方がうれしいけれどね