ここ最近ずっと気分が落ち込み続けていて、どうにも感情を浮上させることが出来ずに項垂れたまま毎日をやるせなく過ごしてた。自分が見過ごしていた重大な事実とどう折り合いをつけたらいいのか分からずに、どんなに理性で抑え込もうとしても時を選ぶことなく唐突に襲ってくる哀傷や苛立ちに打ちのめされながら

 

さらに時は下って、今では「こうした煩悶はそれ自体が幸運に恵まれているんだ」って気付いたんだ。そんな事実が存在したこと、それを窺い知れたこと、我が国で彼の名前とその魅力が曠然と知れ渡ったであろうことも…すべては手放しで歓ぶべきことなんだ。そんな言を俟たない事実にさえこのありさまだ、だから「傲慢だ」と言うんだよ

 

 

あの「家庭の妻」「幼い子を持つ母」「〇〇家のお嬢さん」としか看做されずに、何の社会的主体性も持ち得なかった出産後の数年間ほど悲劇的で残酷な経験を知らない。あんなに人生で絶望したことはなかった、その悲嘆に寄り添ってくれたのも、そこから立ち上がって一歩を踏み出す背中を押してくれたのもやっぱりオペラだった。あの頃に戻ることを思えば、どんなに仕事上で辛酸を舐めるとしても堪え難い魂の乾きより遥かにましだ。そうであるならば、ましてやそれがオペラによるならば、どんな苦痛でさえ糖蜜の甘さに変わるよ

 

そこに存在してくれるだけで、ただそこに息衝くだけで誰かの生き甲斐になる…そんな世界が本当にあるんだね。これまでも知っているつもりでいたけれど、これほど絶大な力を持っているとは思っていなかったし、私個人の嗜好こそあれどそのほかの類稀なる芸術と対等に位置付けるべきだと考えようとしてきた。「今更何を」って感じだよね、改めてオペラってすごいんだな。そんなことは到底不可能としても連綿とした歴史上において数え切れない人間を救い続けてきたオペラを愛する者として、それに相応しい人間でありたいと願うよ

 

どんな失敗も笑顔で埋め合わせてきた、今こそ最上の破顔で乗り切るべきだ