豆知識を教えて

別に「豆知識」というような類の趣旨でもないのだけれど…最近誰かにオペラについてを話す機会が多い。それは「趣味はオペラ鑑賞です」と謳って憚らない人間であるから、旧来から折に触れて話題に上がってそれ自体の頻度は変わらない。より有り体には「普遍的な事柄に驚かれる」ことが多くなったと言うべきかも。そして、その「相手に驚かれる事柄に対してこちらが驚かされる」のだって

 

自分で書きながら訳が分からなくなりそうだ、つまるところ私達がオペラを語る上で初歩として捉える前提を多くの人は知らない。この世界に暮らす人々はあまりオペラのことに興味がないようだ、私達オペラ愛好者が考えているよりもずっとね

 

 

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私達にとっては常識でも一般的には知られていないこと;

 

①「『オペラ座の怪人』はオペラではない」

 

昨日の記事でも書いたよね、あの会話はネタじゃなくてよくあることなんだ。それもかなりの頻度でね。最初はこちらの失笑を誘う小粋なジョークか何かだと思ってたから「ははっ、それは面白いですね。残念ながら『オペラ座の怪人』は観たことないです」って答えてたのに、そう返事するたびに「えっ、それじゃあ何を観るんですか?」って真剣な表情で畳み掛けられるのを見て「…ああ、これは本気で訊いてたのだな」ってことに気付いたんだ

 

そこで私は「あれはオペラ座を舞台にしたミュージカルですよ。一般的にオペラはオペラ座が聖地とされていて、所謂ミュージカルはブロードウェイやウェストエンドがそれに当たります」と答えようとするものの、そんな風にボールを投じたら相手の気持ちも会話それ自体も縺れてしまう。だから、最近はただ単に「音楽鑑賞です」って答えることにしてる。その方がオペラやミュージカルの定義を語るよりずっと気が利いてるからね

 

そうしたら「そんな時ってどんなお酒を飲むんですか?」のように話題を別方向に逸らすべく誘導したり「私も音楽を聴くのが趣味で最近は〇〇が好きなんです」って相手の関心事に移譲したりできるから、そのまま円滑なキャッチボールを続けられるってわけ。ごくたまに「どんな音楽がお好きですか?」って質問された時は「実はクラシックを少々」で乗り切ってる。ただし、そこから「どんなクラシックを聴くんですか?」って訊かれたら結局嘘を吐き切れずに振り出しに戻るんだけどね。私はもう少し会話術を磨くべきかもな

 

 

②「名曲「私のお父さん」の出典は悲劇ではない」

 

我が国ではドラマ挿入歌やCMによく起用されるこの曲。最近はそうでもないのかもね、私の幼少期なんかは「これを聴かずに過ごせる日はないんじゃないか?」と思うほどに実によく流れていたものだったよ。私達オペラ愛好者にとっては『プッチーニの三部作』中で唯一の喜劇である『ジャンニ・スキッキ』の一場面で流れるアリアとのひとつであり、それからの顛末を考えるだにともすると口許が緩むことさえありそうなものだ。恐らくはその曲調からだろうか、「これは悲劇じゃないの!?」と驚かれることが大変に多いんだよ!

 

 

③「同じく名曲「小さな木の実」は、実は恋の歌である」

 

これについては少々の誤認も止むを得ない部分があるかもしれない。我が国では国営放送に准じるNHKの『みんなのうた』で1971年から編曲版が流れていたようだし、私の世代では小学生時代に音楽の授業で教科書にまで載っているこの曲を習った。「じゃあ、当時このオペラについて教わった?」って訊かれたら、それは完全に「NO」を意味する。こうまで知名度が高いのに、誰もその出典を知らされないまま大人になっているって訳だ。私自身もこれが『美しきパースの娘』の「セレナーデ」であることを意識したのは大学生になってからだった

 

ちなみに、元曲は鍛冶屋のスミスが恋人カトリーヌへ思慕を歌い上げる恋の歌なんだよね。もし私が死んだら自分の親族に会いに行くのも愛新覚羅溥儀を眺めに行くのも後回しにして、真っ先にビゼーの許へ走っていって伝えたいよ。「今や『カルメン』は世界中で上演されないシーズンなどない大人気作品だよ。それはそれとして、あなたの祖国から遠く離れた極東の地で「セレナーデ」は歌えない者のいないほど有名になってる」ってね

 

 

④「恐らく最も有名なアリアである「誰も寝てはならぬ」はオペラの曲である」

 

以前にもこのブログで書いたかも、「昔は日本で最も有名な男声アリアといえば『トスカ』の「星は光ぬ」だった」って。そして、恐らく女声なら『カルメン』より「恋は野の鳥」だったはず。さあれど、その趨勢はある年を境にして一気に様変わりを見せてしまった。その「ある年」こそパヴァロッティが開会式に降臨し、さらに荒川静香さんが女子フィギュアスケートで金メダル獲得の快挙を成し遂げたトリノ五輪開催の2006年。この舞台における「キング・オブ・ハイC」と「クールビューティ」のもうひとつの共通点こそが「誰も寝てはならぬ」だ。こうした刹那に人気の移ろいを見るにつけ、ただ心臓を掴まれるような気持ちだった。今にして思えば、あれは歴史を目撃した瞬間だったのだろうな

 

「これは架空の中国を舞台にしたオペラで歌われる曲で、その内容は「私が勝利するまでは誰も寝るな」です」って話すと結構驚かれるし、それと飽き足らずに「(どうせ退屈な)オペラで寝るなって無理でしょ!」って一笑に付されることもまた事実だ

 

 

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ほかにも私達「オペラ愛好者」と「それ以外の人々」の間には隔たりがあることは確かだ。今後新たに出遭ったり、それについて思い出したりしたら加筆および修正するとしよう。私が一番言いたかったのは「まったくオペラは堅苦しい芸術なんかじゃない」ってこと

 

でも、そうだな…もし表題に相応しい豆知識について話すとしたら、巷ではよく「缶詰が発明されたようやく約100年後に缶切りが生まれた」なんて言われるよね。それは必ずしも正確じゃないんだ。いわゆる現在の保存食としての缶詰は1810年に開発され、その後1859年に缶切りが登場するから、その開缶として金槌と釘が用いられていたのは、わずか半世紀の年月にさえ満たない。ちなみに老大国イギリスにはクリスマス用の晩餐をたった一缶で賄える超便利な缶詰がある

 

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