さて、このブログ名でありながら、最近とんとその話題を出していないので、たまにはオペラの話でも

 

今から二年半ほど前に上演された井上道義指揮×森山開次演出(誤解のないように書いておくと、これが当時の公式による表記だった)によるオペラ『ドン・ジョヴァンニ』がYou Tubeに上げられていたので、久々に観た

 

そのキーヴィジュアルに添えられた"オペラ×ダンスの邂逅"の謳い文句が示すとおりに、周知の前提として歌劇の第一義に掲げられている音楽と、まるで同等に舞踊を扱う。こう言うと軽易なようだけれど、決して音楽の担う要素を軽んずるのとも違っていた。例えるのならば、その様相は、お互いを唯一無二と見なし合う好敵手同士のようだ。両者は相克し、時には勝り時には敗し、そうして最後には手を取り合って"邂逅"する

 

そうした成り行きは、そのままモーツァルトが"ドラマ・ジョコーソ(喜劇的悲劇)"と作曲家自ら呼称することを好んだ、この物語の顛末によく似通う。まるで主人公であるドン・ジョヴァンニが女性らに甘言を捧げ、時にはその魅力に耽溺し、その末にある支配に拘泥しながら、それらを望み得ない地獄堕ちを果たした顛末それにだ

 

 

この画期的なプロジェクトの東京公演日程は忘れもしない2019年の1月26~27日だった。かく言う私は無論のこと2日にわたってチケットを押さえたんだけど…あたら2日目は行かなかった。いや、って言うよりも「行けなかった」。なぜなら東京公演初日を鑑賞した際に、あまりの興奮にあわや切迫流産になってしまって、以後は絶対安静を言い渡された挙句に入院扱い(結局は満床で自宅療養で済んだ)になり、どこかに、ましてやオペラ鑑賞へ出掛けるなんてことは到底不可能になってしまったから

 

それで仕事を辞めることにもなって、すべての安定期までの公演を手離さざるを得なかった。だから、その発売日当日に座席を押さえた新国立劇場の『紫苑物語』世界初演さえも拝めず、あまつさえ日本オペラ協会創立60周年記念公演『静と義経』のチケットはあわや紙屑と化し、はじめて泊まるはずだったドリームゲート舞浜アネックスもキャンセルしなくちゃだったし、何よりも、ここ十数年ほど毎年通ってたコールクライスの定演も涙を呑んで行かなかった

 

そうしたこと全部を正気を保ったままカヴァやピスコ、鬼ころしなしに乗り切れたのは、この公演が幾度となく反芻してもまだ足りない魅力に満ちていたからだって思うよ。例えば、そう。これを観た誰かの人生観を軽々と変えてしまえるくらいに