事前に想定していたことと実際の出来事の間に乖離はつきもの。「子どもを産んだらしばらくは映画や読書とはサヨナラだよ」なんて言われて戦々恐々と心許ない覚悟を築いていたけれど、実際には子どもの昼寝中なんて物音がするから家事どころじゃなく、我が家では夫が率先して寝かしつけをして映画を楽しんでいる

 

昔は私自身がメモ魔であることもあって、必ず自筆で感想を書いていたものの、先の引っ越しを機にそれらのノートもすべて処分していた。今度からはここに書けることだしね。ということで、昨年末までに観た映画の中で印象に残っている作品の感想でも

 

 

NASAの元技術者であるホーマー・ヒッカムの少年期を綴った自叙伝の映像化作品。アメリカ東部の炭鉱の町でロケット打ち上げを志す少年たちの物語で、「時に壁にぶつかりながらも目標を通じて成長して行くさま」こそはまさに青春ストーリーの王道そのもの先述した自叙伝の題名は"Rocket Boys"、今作名はそのアナグラムでる"October Sky"。邦題は『遠い空の向こうに』で、それだけで胸に込み上げるものがある

 

ロシア帝国の最後の皇帝となったニコライ2世と彼の愛人であり伝説のプリマとして今日もその名跡を遺すマチルダ・クシェシンスカヤに焦点を当てた、上質な純愛映画作品となっている。日本公開前から「観たい」と思っていながらも、当時は週5でアフター5(死語)をキメており週末は劇場をハシゴするなどしていたので、いつしか存在を忘れていて今般ようやく観るに至った必ずしも史実に忠実でなく、むしろ創作と歪曲がふんだんに盛り込まれていることで物議を醸した本作だが、その作風はロシア的なそれとは異なっていて間延びや中だるみとは無縁で、間違いなく映像美は素晴らしい

 

マチルダ役のミハリーナ・オルシャンスカが説得力のある美しさを煌めかせているのに比べて、到底ニコライ二世はいわゆる皇帝には見えなかった。せめて斜視であってくれよ…

 

こちらも伝説のダンスールで「ニジンスキーの再来」ことルドルフ・ヌレエフの半生を描いている。監督はレイフ・ファインズ

 

先述のように「観たい」と思っていて、幾年月を経て昨年ようやっと観たものの…てっきり主演はセルゲイ・ポルーニンだと思い込んでいたせいで(それと錯誤するようなプロモートを仕掛けていたしね)、今作の中盤でポルーニンが登場した時には「いや、誰だよ?」となった。これはこれとして、いつか『バレンチノ』製作の裏側を描いて欲しいと切に願う

 

名子役としてその名を馳せ、ミュージカル映画の一時代を築いたジュディ・ガーランドの晩年期に光を当てた作品。主演のレネー・ゼルヴィガーが主演女優賞を総なめにしたことでも記憶に新しい。今作より以前にシャーリー・テンプルの自伝に基く映画を観たことがあって、それによれば彼女は『オズの魔法使い』のドロシー役を演じたい一心で子役になったという。結果、その計画は頓挫したのだけれど、まさかそれが名子役二者の運命を分かつ分岐点になろうとは…

 

邦題は『ジュディ 虹の向こうに』。これは言うまでもなく『オズの魔法使い』の劇中歌である"Over the Rainbow"に由来するもので、今作中でも描かれているように当時としては珍しくジュディがSOGIにおけるソーシャライトであったことから、現代でもレインボーカラーが彼らにとってのその存在の象徴になっている

 

冒頭で「君は他は凡庸だが、その声がある」と評される場面があるのだけれど、彼女の成長を知る者なら誰しもその声は無論のこと、それ以上に技巧にこそ魅了され夢中になったはず

 

レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピッドの初共演作品としても話題となった今作はその題名のとおりに1960年代のハリウッドが舞台となっている。もしこの作品についてまだ知らない人がいるとしたら、そのまま観るのが正解だと思う。私は事前の知識があったので、夫から「これを観よう」と誘われた時に「ちょっとでも暴力性を感じる描写があったら、すぐに観るのを止めるから!!!」と言伝して観始めたら…もう鑑賞後感は最高オブ最高って感じ。こうなって欲しい人生だった。昨年観た作品中でベストかも

 

清王朝最後かつ満洲国唯一の皇帝として即位と退位を繰り返し、最後は一市民としてその生涯を閉じた愛新覚羅溥儀による『わが半生』に起点を置く映像化作品。こちらも「史実に基づく」と謳いながら、それと出来得る限りにおいて"盛って"いるのが特徴的である。いわゆる"世代"ではないので、今般はじめて観たら、その物語性と映像美に本当に驚かされた。こういった作品はいい意味でも悪い意味でももう創られないだろうな…。特に最終場とか

 

 

以上、「昨年までに観て印象に残った映画に対する所感」でした。今年はどんな映画に出逢えるかな? それを考えて胸弾ませて新型コロナの収束を待ちます