そういえば、先般Disney+限定で配信された『魔法にかけられて2』を観ました。こうして話題に触れる以上は概要なりあらすじなりを紹介するべきだとは思うのだけど、いかんせんその気力は湧かないな…。この続編は原題が"Disenchanted"となっており、その題名のとおりに魔法が解かれてひどく幻滅したと言わざるを得ないというのが正直な気持ちです

 

これは個人の感想に過ぎないので、本作に感銘を受けたという意見もあろうとは思う。前作でエイミー・アダムスを一目見た時に「まるでおとぎの世界から抜け出してきたみたいだ」って溜め息を漏らされた彼女の愛くるしさは健在だし、あまり会話の妙など細部に目を向けなければ筋書きや設定は優れていた。では、どうして魔法が続かなかったのかというと、その問題は音楽にあるのじゃないだろうか

 

 

ちょっと話は逸れて、いわゆる音楽愛好家ならずとも誰もが知っている作曲家といえば、真っ先に挙げられる名前はさまざまあるとしてもモーツァルトを欠かすことは出来ないだろう。彼が洋の東西を問わず広く愛され、今日までその人気を不動のものたらしめる理由は、誰しもの度肝を抜く強烈な逸話もさることながら、やはり早世であるにも関わらずに大量に残されている作品とその質にあることは疑いようがない。そんなモーツァルトの最盛期は、一般的に20代後半〜30代前半と言われる。これは作品としては『フィガロの結婚』や『ドン・ジョヴァンニ』の作曲時期にあたることから、私個人としても大いに同意するところ

 

何が言いたいかというと、前作と今回の続編の音楽を手掛けたアラン・メンケンについても同じことが言えるのではないかな…と考えさせられてしまった。彼はディズニー第二期黄金期の立役者と言っても過言ではないほどの泣く子も黙るヒットメイカーで、実際のところその名前はアカデミー作曲賞をはじめ、数々の主要な賞に何度となく輝いている。そんな彼もいよいよ喜寿を前にして、その途方もない長さゆえ永遠に続くかに思われた最盛期を終えたように思われたのだ

 

 

件の「第二期黄金期」の特徴として挙げられるものとして、恐らく最も主要なのは経営陣と現場責任者の交代によって実現した「先般までとは異人種(もしくは人間ですらない)の主人公やそれをとりまく登場人物の台頭」だ。一例を示すだけでも『リトル・マーメイド』『アラジン』『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』『ヘラクレス』と、その枚挙に暇がない。「これらの作品の作曲を手掛けたのがA・メンケンだよ」といえば、彼を知らない人にもその功績が分かりやすいだろう

 

しかしながら、彼の作曲家としての実像に迫る際に、決して欠かしてはならない作品がある。それこそが『美女と野獣』だ。これは先述の作品群とは毛色が少しばかり異なるものの、これまでにヒットした第一黄金期の作品群の鉄則である「原作の簡略化と敷衍(つまるところ、おとぎ話の商業化)」を踏襲し、その他の第二期黄金期作品と共通する点として「若きアニメーターの登用」「ブロードウェイ・スタイルの導入」を果たすなど、極めて保守と刷新の均衡が取れている。いわゆるディズニーが継承してきた伝統と、新しい革命の息吹きが一作に余すところなく詰め込まれているといっていい

 

それこそが『美女と野獣』が不朽の名作と謳われ、今なお私たちを惹きつけて止まない由縁である事実は疑いようがないだろう。しかしながら、その中で欠かせないものといえば、これもやはり音楽に他ならないのだ

 

 

彼が紡ぎ出した魔法の威力たるやすさまじく、その効力は呪文の詠唱から30年が経過した今なお色褪せることがない。今作公開当時はピーボ・ブライソン&セリーヌ・ディオンが歌っていた主題歌は、近年の実写化の際にはジョン・レジェンド&アリアナ・グランデによってカヴァーされたけれど、たとえ歌い手が変わったところで「名曲」というのはその真価を変えることがない

 

余談だが、かつて坂本九の歌う「上を向いて歩こう」が米国内におけるレコード累計販売数100万枚を記録したこと、その功績によりゴールドディスクを受賞した事実は周知のとおり。その際に「僕だけがこのゴールドディスクの恩恵に預かるべきじゃない。もし出来ることなら、これを3つに分割してしまいたい」と語った彼に対してインタビュアーはにべもなくこう返したという;「いわゆる名曲というのは、誰が歌っても巷を賑わせる運命にある。あなたはその名曲に運良く預かった果報者に過ぎない。だから、作曲者や作詞者でなく、あなただけにこれを贈るのです」

 

 

さまざまな歌手ごとの解釈によって磨かれ続けてきたオペラや歌曲について考慮を重ねるほどに、その言葉に対しての評価は個々に任せざるを得ないという結論に達して然るべきだ。この曲の歌唱においても誰の歌い方が好きで、どちらのハーモニーが優れているかなどあくまでそれぞれの嗜好に拠るに過ぎないだろう。しかし、そうした多様な選択肢もそれを取り巻く議論もすべては「この名曲あってこそ」のものと言える

 

冒頭で私は「A.メンケン氏の旬は過ぎたのでは」と書いたけれど、それに対してもさまざまな意見があるはずだ。ただ一つ言えることがあるとすれば、そもそもその才能なくしてこの議論は成立し得ない。彼の創り出した名曲の数々と、その所在に関しては言わずもがな