もしかしたら自覚がないだけで、実は物見高い性質なのかもしれないな。だって、誰かと親しくなろうとする時にはいつも「愛読書」「好きな食べ物」「最近の旅行先」だけじゃなく、その理由を必ず知りたいって思う。それに常に主要な海外ゴシップを押さえているし、そのために一時期なんか毎週欠かさずにPeopleやUS Weeklyを買い漁ってた

 

今となっては週刊誌はウェブサイトにその形態を変え、そこで話題に上る顔触れも様変わりしたものの、この興味だけは現在に至ってなお変わらないまま。いわゆる著名人のPDAやファーフィにすこぶる目がなく、それをツイッターでTIPSよろしく定期的に書き出そうとしたことさえあるほど。とはいえ、ああした情報アカウントの運営を見るにつけ精神的摩耗が激しそうなので、私にはおよそ務まらないって確信したよ

 

どうせならその中でもお気に入りの著名人のなれそめの、さらに個人的なとっておきの逸話について書くことにする

 

 

 

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1. クララ・ヴィークとロベルト・シューマン

数多ある作曲家のロマンスの中でもとりわけ著名なこの2人のそれは、もしかしたら音楽に興味がないという人でも知っているかも

 

彼女にとってはピアノの師匠でもあるクララの父・ヴィークの許をピアニスト志望だったシューマンが訪ねたのは、シューマンが18歳でクララが9歳の時のこと。その当時ほかに意中の相手がいたシューマンにとってクララは妹のような存在だったようだけれど、彼女の方はそうではなかった。そして、彼らは出逢いから11年後にあらゆる障壁を乗り越えて結婚し8人の子女を設けた

 

この歴史上においても稀有なほどに理想的な夫婦は、どんな些細な逸話でさえ何から何まで微笑ましく、個人的にお気に入りなのは「毎週日曜日にお互いの日記を朗読し合っていた」というもの。なんて健全でまぶしいんだろう、いつだって愛するべき人々っていうのはそうだ

 

もし私が夫をたらしこんで同じことを試みたとしても真似できないし無理だね、私のは下書きの段階で消えちゃうことが少なくないし夫がペンを執っていることを仮定したとして悪筆過ぎて読めないし

 

 

2. ウジェニー・ド・モンティジョとナポレオン3世

The Emperor and Empress of the French with their only son, the Prince  Imperial. | Napoleon iii, Napoleon, Louis napoléon bonaparte

こちらもさまざまな伝承が古今東西に残る王侯貴族たち。それらの中には恋愛や結婚に纏わるものも少なくなく、実際どの夫婦のことを書こうかと思案しもした

 

彼女のために王冠を捨てたエドワード8世を「私は殿下に失望いたしました」のたった一言で虜にしたシンプソン夫人やはじめて同国の出身でベルギー王妃となったマティルデ王后など、多くの逸材についてタイプする可能性を振り払わせたウジェニー皇后は、その話題性に事欠かない

 

誰しもを魅了する美貌の女伯は『カルメン』の作者として知られるメリメとの親交も深く知性に富んだ上に運動能力も良好ゆえヨーロッパ中から求婚が相次いだという。しかし、彼女は心に決めた人がいたため断り続ける。その彼はあろうことかウジェニーの実姉と成婚してしまう

 

その反動で数々の破天荒を繰り返した数年後に、とある舞踏会で出逢った男性から一目で求愛を受ける──「どうしたら君の心が手に入る?」。その男性こそがナポレオン3世、彼女は以後を時にはソーシャライトとして時にはお忍びで社会活動家として善行に捧げた

 

 

3. マーガレット・ミッチェル

現代においても小説と映画の両業界における「不朽の名作」として広く親しまれている『風と共に去りぬ』。その主人公であるスカーレットよろしく作者であるペグ・ミッチェルもまた恋多き女だった

 

同じく南部の出身である彼女が妙齢の時分には、常に複数人と婚約しているような状態だったという。それに気を揉んだらしい両親がダンス・パーティを主催した結果、最初に踊った相手…ではなく、そのルームメイトだったベリーン・アップショー(通称レッド)と結婚することになる。しかし、ご時世柄もあって学業も仕事も思うようにいかなかった彼がアルコール依存に陥ったことから、ほどなく結婚は終焉を迎えた

 

その心身ともに傷付いた彼女を支え続けた末に生涯の伴侶となった男性こそがあのダンス・パーティの夜に最初に踊った相手であり、先の結婚でベストマン(花婿介添人)を務めたジョン・マーシュである

 

もし彼と結婚していなければ、この世にはタラの大地もそこに息衝く魅力的な登場人物たちも生まれていなかったに違いない。自宅で療養中の妻に代わって地元の図書館で本を借りてくるのが日課だった夫が手ぶらで帰ってきた日に、その理由を訊ねたところ、彼はこう言ったという;「あの図書館の本は全部読み終わってしまったよ。さあ、次は君が書く番だ」

 

 

4. シャーリー・テンプル

数年前の映画公開時に話題を読んだ『ジュディ 虹の彼方に』では子役から一躍スターに上り詰めたジュディ・ガーランドの孤独や悲哀がつぶさに描き出されていた。今なお『オズの魔法使い』はガーランドにとっての代表作として知られているけれど、同作に主演することを熱望していたものの願いを叶えられなかった同じく元子役のシャーリー・テンプルは幸福な結婚に恵まれたのだから、この世の中はどう考えたものか本当に分からない

 

とはいえ、彼女も最初の夫のアルコール依存によって初婚は失敗に終わり、その後に出逢った瞬間に一目で恋に落ちた2番目の夫とは55年間を添い遂げた。いわゆる皇室や貴族制度がないアメリカではそれに準ずる存在としてピルグリム・ファーザーズと彼らの直系が挙げられる。その公私にわたって注目を集める魅惑の「王子」と、かつてアメリカ全土を魅了しその名前を知らぬ者はいないとまで言わしめたスター子役は、お互いの素性を知らないまま惹かれ合ったというから、なんともロマンチックな話だ


5. イングリット・バーグマンとロベルト・ロッセリーニComo un volcán (El romance de Ingrid Bergman y Rosellini) - Frontera Digital

先述した2人の女性の社会的成功について語る上で欠かすことが出来ない人物の一人にデヴィッド・O・セルズニックが挙げられるだろう。『風と共に去りぬ』の映画化を手掛けてヒットへ導き、やや子役として難しい年齢に差し掛かったシャーリー・テンプルの主演作をどれも黒字にした手腕で知られている。その手引きでスウェーデンの名女優からハリウッドの名女優へ活躍の場を広げた彼女は、たまたま観賞した数本の作品によって、ロベルト・ロッセリーニ監督作へ出演を渇望するようになる

 

「親愛なるロッセリーニ様 あなたの作品を拝見して、それらにとてつもなく感銘を受けました。もしスウェーデン人女優をお探しでしたら、ここに候補がおります。英語は堪能ですが、ドイツ語はうろ覚え、フランス語を解しているとは言えず、イタリア語に至っては『愛している』の一語しか知りません。それでもよろしければ、私はあなたの映画へ出演する準備は出来ています」という熱烈な文面は天才の心を揺さぶるには覿面で、ほどなく2人は監督と主演女優という間柄になり、さらにはお互いに既婚でありながら道外れた恋にその身を貶すことになった

 

 

6. 平野レミと和田誠

平野レミさんと、和田誠さんのことを話そう。 - ほぼ日刊イトイ新聞

かつてシャンソン歌手だった平野レミの歌声を聴いた瞬間に一目ならぬ一耳で恋に落ちてしまった和田誠。彼女がアシスタントを務めていたラジオ番組の司会だった久米宏とは旧知の仲だったために仲を取り持ってくれるよう頼むも素気なく断られ、なんとか別筋からの口利きで出逢いの一席を設けてもらえることに

 

その趣味や嗜好を調べ上げていた和田が宴も酣になった頃合いを見計らって披露した手品に夢中になった平野は、その「これから僕の家へおいでよ、とっておきを見せてあげる」という誘い文句につられて、彼について行くことにした。「そうしたら、そのまま結婚することになっちゃったの!」だそう

 

余談として、その初対面が予定されていた店のことなど露知らずにたまたま立ち寄った黒柳徹子は、そこで和田誠から「これから妻になる人に会うことになっている」と言われたと語る。その後にその逸話について否定しているインタビューも読んだことがあるけれど、その用意周到な準備はもちろん結婚後の微笑ましさを見るにつけ、どう考えても照れ隠しとしか思えないな

 

 

7. ルイサナ・ラピラトとマイケル・ブーブレ

カナダ出身の歌手マイケル・ブーブレが彼自身の運命の相手とそうとは知らずに出逢ったのはアルゼンチンを訪問した際のこと。ある夜に参加したパーティの駐車場で見掛けた魅力的な女性に一目で心を奪われてしまう

 

しかし、「同伴者のいる」「初対面の相手に」「夜の駐車場で」話し掛けることは難しく、ただ為す術もなく立ち尽くしたままでその場を終えることになってしまった。そのことを後悔しながらホテルへ戻ってテレビを点けたところ…なんとそこには先程恋に落ちた相手が映っているではないか! そう、実は彼女は同国では有名な女優だったのだ

 

すぐさま関係者に仲立ちを頼んだ結果、数日後無事に改めて「初対面」をやり直すことが出来たものの、彼女からは「あの夜に何も言わずに私の男友達(同伴者)のことばかり見ていたから、てっきりそっちに恋したのかと思ってた!」と言われてしまったそう。その後に遠距離恋愛で心の距離を縮めた2人はめでたく結婚し、現在では4人の子供を設けている

 

ちなみに、まだ出逢ったばかりの頃は、彼女は英語がまったく話せなかったという…いわんや恋に国境はないということなのだろうか

 

 

8. エルサ・パターキとエイドリアン・ブロディ

Kayleigh Donaldson on Twitter: "I am and will forever be obsessed by the  time Adrien Brody bought a castle for Elsa Pataky, then they did a 35-page  spread exclusive for Hello! about

この年の「最も熱烈なカップル」を挙げるとしたら、彼らをおいてほかにはいまい。そのなれそめはエルサ曰く「あるパーティに出席したものの、まだハリウッドに来たばかりで知人も友人もおらず、誰にも相手にされていなかった私に、彼だけがやさしく声を掛けてくれたの」というマリー・アントワネットとフェルゼンを思わせるような美談である

 

この背景に写っているお城は、実は彼がプレゼントとして贈ったもの。ある日ドライブへ誘われて車に乗り込み着いた先がここで、そのまま一通り見学を終えて再び車に戻ろうとしたところ、「もう帰らなくていいんだよ、これは君のものだから」と言って鍵を渡されたという顛末をこの写真が撮られた際のインタビューで語っている

 

しかし、この2世紀も前に建てられたお城は実際に住むには向かず、そのため大規模な工事をしている間に、あえなく2人の関係は終焉を迎えてしまう。その形式に捕らわれない愛を定義しようとした彼に対して、彼女はすぐにも結婚したかったというのが原因と言われている。現在、一方はアベンジャーズと結婚、もう一方は悪名高きワインスタインの元妻と交際中

 

 

9. ベッカム夫妻

ヴィクトリア・ベッカム&デビッド・ベッカム夫妻、英国版GQ Men Of The Yearの授賞式に出席☆ :  海外セレブファッションブログ|最新スナップ・おしゃれ情報が盛り沢山!DailyCelebrityDiary*

老大国イギリスの階級制度がいかに私達外国人にとって理解し難いかは数年前の出来事において周知のとおり。さらに、かの国では著名な女性アイドルグループの構成メンバーはWAGsになることがお決まりの道筋であることを考えるだに、この2人が相愛になるのは運命めいた必然だったのかも

 

彼らが出逢った頃はまだベッカムは労働階級出身のサッカー選手、一方のヴィクトリアは高級住宅街で生まれ育った上に当時は世界中のティーンたちから歓声を浴びて止まない「スパイス・ガールズのポッシュ」として羨望の的であった。現在では彼自身も認めているようにポッシュのファンだったベッカム、ある日の試合を観戦に訪れた憧れの存在に思い切って声を掛けるも「私と付き合いたかったらモカシンでも履いてくることね」と軽くあしらわれてしまう

 

これまで女性から追い掛けられるばかりだった彼はその一言で完全に恋に落ちてしまった。その一週間後に再び観戦に来た彼女を試合後にデートに誘ってモカシンを履いて行ったところ、その努力が功を奏し電話番号を聞き出すことに成功、今でもオシドリ夫婦として知られている

 

 

10. アンナ・ネトレプコとユシフ・エイヴァゾフ

画像】来日直前! “現代最高のソプラノ”アンナ・ネトレプコに突撃インタビュー「とても楽しみです!」」の画像2/2 | SPICE -  エンタメ特化型情報メディア スパイス

これまでに幾度となく業界を賑わせてきた歌姫・ネトコが浮き名を流してきた相手と言えば、先日も新国立劇場で『ドン・ジョヴァンニ』のタイトルロールを務めたことが記憶に新しいシモーネ・アルベルギーニや同じく同作品をレパートリーとして掲げるアーウィン・シュロットなど、いわゆる美貌のラテン系バリトンばかりだった

 

そんな彼女が人生の同侶に迎えた相手は国内外における知名度が一般には決して高いとは言えないテノール歌手で、いわゆる二枚目の定義からも懸け離れていた。ただ、全世界から愛されるディーヴァにとって自分の機嫌をとってくれる人間には事欠かずとも、その息子にまで配慮してくれた存在は貴重だったのでは

 

彼女たちの子供が自閉症であることを告げた途端に元妻とその愛娘の許へ戻ったE.シュロットとは異なり、彼は共演作のリハーサル中ずっと愛息ティアゴ君を気に掛けてくれていた。そのことから結婚まで事が運び、現在でも2人だけで撮った動画をたびたびインスタグラムに上げるなど、その父子の絆はさらなる堅さを増しているようにさえ見える

 

彼ら「ネトレゾフ」は共に旧ソビエト圏の生まれで、その父親はどちらも大学教授だというから、もしかしたら価値観も親しかったのかも

 

 

余談ですが;

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もともとはティム・スタッフェルと友人であったブライアン・メイ、そして途中から加入したロジャー・テイラーの3人で"Smile"というバンドを結成し活動を始める

 

彼らがギグの舞台に立つたびに最前列の座席を陣取っては、そこから「もっとこうしろ」「ああすれば売れるのに」といった熱烈な野次を飛ばしてくる出っ歯の男がいた。彼らのフロントマンであったティムと同級生で、まさかその立場を引き継ぐことになるとは他メンバーをはじめ当人でさえ露ほども知らなかった、その人物こそがのちのフレディ・マーキュリーである。その後に当時ロンドン大学で工学を専攻していたジョン・ディーコンがオーディションによって選ばれ、いよいよQUEENは本格的に始動していくことになる。

 

去年の歌番組でとある日本のバンドのことを「ある程度の楽器をメンバー全員弾くことが出来るためにそれぞれ作詞作曲も手掛ける唯一無二の存在」というように紹介していたけれど、そんな馬鹿げたことを言わないで欲しい。そんなバンドは国内外に掃いて捨てるほどもいる、ただそれぞれが世界的に知名度を誇る楽曲を生み出せたのはQUEENをおいてほかには考えられない。それこそ唯一無二の存在だよ

 

 

 

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以上、「著名人の馴れ初めあれこれ」でした。もっと書きたい気持ちはあれど、それこそお気に入りの逸話がたくさんありすぎて際限がない。ほかにもデュ・バリー夫人とかレイチェル・マクアダムス&ライアン・ゴズリングとかリリー・トムリンとか…

 

こういうのを書くと「自分だけ無傷でいるつもり?」って言われそうだけど、たかだか凡庸な一般人の市井の恋に面白みなんてないから、むしろ読んだ人が無傷じゃいられなくなりそうなんだよ

 

代わりと言っては何だけど、私が知る一般人の馴れ初めの中で、最もロマンティックなのは「いわゆる深窓の令嬢だった女性と恋に落ち、周囲の反対を押し切って愛し合った末に駆け落ちして幸福な家庭を築き添い遂げた」というもの。これは私の祖父母の話、まるで『きみに読む物語』ばりの実話だ