そういえば、今年はゼフィレッリ生誕100周年の節目なんですね。彼が手掛けたオペラ演出といえば、そのままエジプトの息吹を息衝かせたかのような『アイーダ』やこちらも異国情緒あふれる壮大なスケールが圧巻の『トゥーランドット』だと思うんですが、なぜか上演されるのは『トスカ』なんですね。なんでだろう。それに伴って、さまざまな国内外の劇場が同作を掛けてるよね。なんか夏頃から引っ切りなしに押して来るので、もはや食傷気味かもしれない

 

「乗るしかない、このビッグ・ウェーブに」……ってことで、折角なので、当ブログでも『トスカ』のことを書きますね

 

 

 

今作を挙げた際の定番中の定番といえばこれ。その生涯において公私にわたって深い親交を結んだマリア・カラスとジュゼッペ・ディ・ステファノによる録音は、その2人の関係性が大いに生かされているばかりではなく、実際にそれぞれの絶頂期が重なったことから、あらゆるオペラ愛好家の間でも呼び声が高いのだろう

 

この後にカラスは過度なダイエットによって衰え(『ヘラクレスの難業』でも描かれたような雪深い保養地で甲状腺にホルモン注射を行ったという眉唾話まである)、一方のディ・ステファノは急速なレパートリーの拡大やそれに伴うストレスによる不摂生で持ち味を失う。でも、こうして残る彼らの輝きは永遠だ

 

あのさ、これはオペラを愛する前から思ってたことなんだけど…ここでタイトルロールを務めるミレッラ・フレーニのレパートリー幅広すぎでは? いわゆるドラマティコと呼ばれる役柄からレッジェーロのそれにまで精通していた印象がある。最近ではアンナ・ネトレプコもそんな感じですが、その頭角を現すのが群を抜いて早くて、なおかつ活動時期が長くないと成立しないという、まさに離れ業なのだな。

 

ところで、「最も有名なテノール歌手のアリアといえば?」って質問したら、現代においてはその答えは決まってるよね。今の若い人に言っても信じてもらえないかもだけれど、あの2006年のトリノ以前はこちらが趨勢だったんだよ!

 

かく言う私にとっての名演はこれ。大方のことは分かってる、どうせ往年のオペラ愛好家は「こんなのはトスカじゃない」とか言うんだよね。この演目に明るくないとはいえ、現代に翻案した演出において、ここまで優れたものをほかに知らないよ

 

その素顔も愛らしくキュートなビストレームといつもおしゃれなゲレーロ(合唱畑出身者にはゲレッロの方がしっくり来るな)、彼と数歳違いなのに貫禄たっぷりのハコビアン。この動画では気さくそうなのに上演中に見せる迫力たるや。ここまで演出家の設計どおりに演技の技巧者が集まるのもなかなか類を見ないように思う。本編はBlu-ray化されているので、ご覧になりたいはぜひ

 

こちらは元東京バレエ団プリンシパルの井脇幸江さん率いるIwaki Ballet Companyにより、同氏が主演する『トスカ』。今作のバレエ化は世界初だそう。ちょうど一年前に上演していたらしいことを今になって知って身悶えてる、この"トスカ・イヤー"に再演してくれたらな…

 

その歌手の持ち味や演出によってオペラでは老獪でありながらキモかったり、峻厳さの中にキモさが垣間見えたり、単純にキモかったりするスカルピア男爵ですが、そのあたりを流麗な世界が求められるバレエにおいてどう折り合いをつけるのか。かのマーラーも酷評したほどにかなり血生臭い場面が多いので、それらの舞踊化がいかなるものか興味が尽きない

 

どんなに偉そうなことを言ったところで所詮オペラ評なんて個人の嗜好の域を出ないし、そもそもブログ自体がごく個人的なものだ。その上で個人的な「星は光りぬ」の決定版といえば、はじめて聴いたというのもあって、先述したドミンゴによる歌唱なんだ。それを昔ある掲示板に書いたら袋叩きに遭ったんだよね。まさにカヴァラドッシ並みの損傷を受けたと言っても過言じゃないくらいに

 

そんな彼らが決定版として推すのがパヴァロッティの歌唱によるこちら。どちらも今後何百年も残る名演だと思うし、大体にしてそこに優劣をつけるべきじゃない。そんなことをしたら、その時こそ愛の夢は立ち消えてしまう

 

本来ならここには近日来日予定が控えているボローニャ歌劇場の『トスカ』の予告でも貼ろうと考えていたけれど、どうやら考えが甘かったようだ。ここまで名実ともに兼ね備えた布陣を揃えておきながらそれを喧伝しないということは、そんなことをしなくてもチケットが売れているという証左なのだろうな

 

「代わりに」と言って貼付するのが申し訳ない先月上演のローマ歌劇場の撮り下ろし。流石ヨンチェヴァは歌姫に申し分のない佇まいだし、この時グリゴーロは実際に自ら絵を描いていた

 

 

 

昔ツイッターで「トスカというのが実は苗字なのを今知った。ってことは、あの名シーンの捉え方も変わって来るよね。『これが吉田のキスよ!』とか言ってるのと同じってことでしょ?」って書かれているのを見て腹筋持って行かれたのに、今探しても全然出て来なかったや

 

まあ、彼女の場合トスカも名前なんだよね(光之マルセルみたいな)。かたや『ベルサイユのばら』ではルイ15世が自分の愛妾をデュ・バリーと呼んでおり、この場合のデュ・バリーは紛れもなく苗字かつ国王の愛妾は家臣の令室だから「この作品における最愛王の性癖…」ってドン引きしてしまうのは無理からぬことだよね