我が子の出産予定日から2週間前に、当時の推しだったマリウシュ・クヴィエチェンが「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」に来日すると知って悩んだものの、結局は血涙を飲んで我慢した。はたして彼は、その前月の舞台上での負傷が遠因となって、そのまま引退し……それ以来、彼のたどった軌跡とその残滓だけを亡霊のように求め続ける日々を送ってた

 

そんな鬱屈した日々を送り続けること足掛け5年、新しい推しが出来ました。当ブログでも以前に触れたアレッシオ・アルドゥイーニです

 

彼について前回の記事で書いた折には、その演技性の拙さを扱き下ろしたし、正直に言えば今でもその気持ちには変わりない部分も大いにある。先般たまたま彼のインタビュー記事が目に入って、それを何気なく読んだら、自分でも驚くほど呆気なく興味を持ってしまった。以前の推しとはまったく異なる部分においてではあるものの、大変素晴らしい歌手であるのは事実なので、折角ならここで紹介しておきたい

 

 

まずは経歴を。1987年、『ロミオとジュリエット』で知られるヴェローナ近郊の北イタリアはロンバルディア州生まれ。幼い頃からオペラ愛好家の両親の許で音楽の素養を育みながら、さまざまなスポーツに夢中になる。その小学生時代の親友にはテノール歌手の息子がいるなど、いかなる時代にも音楽とは縁深かったという。「幸運なことにイタリア生まれであることは、その言語はもちろんのこと肉体的アプローチや文化的背景を理解する上で、非常に役立ってくれました」

 

「しかし、それはオペラ歌手としての成功と等号しません。私が生まれ育つ時分の90年代の故郷ではオペラと無関係な人物を探す方が困難だったほどです。また、今日では富裕国ほど国民の愛国心は高まる傾向にあるので、かつてに比べてイタリア人であることが却って障害になることさえあります」と彼は語る。しかし、彼は工学の学位を取得する傍らオペラの研鑽を積み奨学金を得て、2010年にはテアトロ・ソアーレ(コモ)で『ドン・ジョヴァンニ』『フィガロの結婚』のタイトルロールを務めた

 

さらに下って2012年にはウィーン劇場の預りとなる。「ほかの劇場も飛び回りながら」という条件下で多忙を極めたため、一年を通して数ヶ月しかアンサンブルを勤められなかったものの、このことが未知の作品と出逢う良い刺激になったと話す。ほかのイタリア出身の歌手に比して、その活動の軸足を国外に置いているのもそれが理由だろうか。「現在はただ家族とウィーンに在住しているからです。彼らはとても親切で、ここで働けることに誇りを持っていますから」

 

彼のキャリアについて、ある記者は「誰もが羨んで止まない」という表現を用いる。また、これまでに何度も演じた『ドン・ジョヴァンニ』については「容姿と技巧の両方が備わった理想的な恋人」だと評されたこともあった。彼自身もまたモーツァルトやベルカントに親和性を抱いていると感じていることから、今後もその分野において盤石なキャリアを築くだろう。一方で、自身が演じてみたい役柄を問われると「『ドン・カルロ』のポーザ伯爵です。最もバリトンにおいて美しい役柄のひとつだと思います」と抱負を語った

 

 

以上、彼のインタビュー記事に関して、大変に粗挽きではあるものの掻い摘んでお伝えしました。

 

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以下は個人の所感(こと萌え語り)です

 

これらの出典であるインタビューを読んだ印象としては「すこぶる真面目なのだな」と…。彼持ち前の「演技論」に関しても同様で、ある程度の意図を理解したら歌唱力やハッタリで押してしまいそうな部分のことも熟慮している。以前に『ラ・ボエーム』のリハーサル映像を観た限りでは、ほかの歌手陣との関係性も良好そうで、現代においてはそうした人柄をこそ重要視される傾向はオペラ界においても例外ではないようなので、これからも長きにわたって活躍してくれることでしょう

 

もしQueenをオペラ化することがあったら、彼にフレディ役を初演してほしいけれど、その音域を考えると難しいんだろうな…。この嘲笑にもはにかみにも好相性な口許が似てる。ちょっと前突なとこまでも。それからROH版の『コシ・ファン・トゥッテ』では例の一連のペンダントに関するくだりの直後にグリエルモがドッラベッラに正体を暴かれ、その上でお互いを脱がせ合ってくちづけを交わすので非常に手数が多いにも関わらず、こんなに反射神経悪そうなのにそこにもたつきがないとこも意外性があって素晴らしいんだ

 

 

ところで話は変わって、各劇場の2023/24上演作は、どれも毛色が違って楽しみ。私にとっての最も期待を寄せる劇場はもちろんMETではありつつ、こちらも英国における初演となる"Woman & Machine"など話題作が満載のROHによる約5年振りの来日に心躍らせている方も多いのでは

 

個人的には、ほぼすべての劇場に出演予定のあるアイリーン・ペレス、ジュリー・フクス(クラシック愛好家はフォスって読みたくなるよね、その気持ち分かるよ)とナディーン・シエラは働きすぎで声を傷めないかと気を揉んでいる。どうか長く活躍してくれますように